「気持ち悪い」 「風邪か?」 「わっかんない。むかむかする」 「うつすなっショ」 「とかいいながら背中摩ってくれるあたり巻島って紳士だよね」 だるい。体が重い。風邪なのかなこれ。変なものでも食べたのかな。巻島のあったかい手が優しく背中を摩ってくれるおかげで少し楽になったような気がしないこともない。座っているのも辛くて腕に顔を伏せると余計に気持ち悪くなった。でも顔を上げるのも億劫だ。 「うー」 「おい、本当にやばいんじゃ」 「きもちわるい吐きそう泣きたい」 「…名前、」 「んー…」 「来るっショ」 膝裏と背中に腕を回されて、所詮お姫様抱っこされた。浮遊感のせいで本当に吐きそう。ていうか重くないのかな。そんな細い身体してるくせに。巻島の胸板に凭れかかって目を閉じると心臓の音がよく聞こえた。なんだか落ち着く。そうして連れて来られたのは何故か男子トイレで、洋式の個室に入れられた。それも、巻島も一緒に。理解できずに呆然としていると、便器の前にしゃがまされた。後ろから巻島が身体を支えてくれている。ええっと、これは?どうしろと? 「っショ」 「あの、ここ、男子トイレじゃ」 「まあ、そうっショ」 「え、なんで」 「吐け」 「はぁ?」 「吐くのが一番楽っショ」 「そりゃ、そうだけど…吐けない!」 「摩ってやるから吐けっショ」と巻島が背中を少し強く摩ってくれる。確かに吐き気を止めるのは吐くのが一番だけど、ここで吐くの?巻島の前で?「無理無理無理」と子供のように駄々をこねていると「え、や…っ」「強行突破っショ」と後頭部を掴まれて、便器の目の前に顔を移動させられた。揺らぐ水面には私の泣きそうな顔が映っていてなんとも情けない。 そして巻島の細長い中指と人差し指が、ぐっと口の中に侵入してきた。舌を掠めて喉の奥にまで入ってきて、ぐえ、と汚い声が喉の奥から出てくる。喉の奥に指を突っ込まれたせいで喋ることができない。異物感と圧迫感に一気に吐き気が襲いかかってきて生理的な涙がボロボロと流れた。 ついに堪えきれなくて胃の中から嘔吐物がこみ上げてきて吐き出した。嘔吐物がびちゃびちゃと汚い音をたてて便器の中に落ちていく。徐々に悪臭も漂いはじめた。後ろから巻島が見ているのに、嫌だ嫌だ嫌だ、と思ってもこみ上げるものを留めることはできなかった。 胃の中が空になったような感覚がする。今流れてる涙はきっと羞恥心からだと思う。なんでこんな姿を見せなきゃならないんだ。便器の淵に手をついて泣きながら息を整えていると、ゆっくり背中を摩られた。優しい巻島の手に余計泣きたくなる。絶対引かれた。もう巻島と顔合わせられない。 「はぁ、はぁ、うう…っ」 「ちょっとは楽になったっショ?」 「ぐす…っ」 「その、すげえ悪いんだけど」 「…?」 「勃った…っショ」 「は、」 「悪りい、」 巻島は何故か瞳を爛々とさせて顔を赤くしていた。腰を掴まれてトイレの壁に押し付けられる。口の周りに付着していた嘔吐物を綺麗な指で拭って「…んんっ!」唇をそのまま奪われた。口内の嘔吐物を舐め取るように巻島の舌が口の中で動き回る。なんでなんでなんで、なんで巻島は興奮してるの、やだ、もう、気持ち悪い。
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