まさか化学の追試に引っかかるなんて、初めの頃は順調やったのに!と心の中で叫んでも仕方なく。満点を取るまで繰り返されるエンドレステストの疲れからため息が漏れた。はぁ、と溜息を吐くと沢山の自転車が帰ってきていたところだった。もう部活も終わる時間か。すっかり遅くなってしまった。

靴の爪先を見ながら足を進めていると「なまえちゃん」と声をかけられた。顔を上げると汗をかいたあきらくん。心なしか不機嫌な表情…に見える。

「あきらくん」
「どこ行くん」
「どこって、家帰るだけやよ」
「あかん、危ないから送ってく。もうちょい待ち」
「え?いらへんのに!」
「こんな遅い時間までなにしてたん」
「化学の追試ひっかかってしもて」
「せやかてこんな時間まで残す先生おかしいやろ。誰や?」
「いやいやこれくらい普通やて。それよりはよ、着替えた方がええんちゃう?」

部室から続々と出てくる部員達を指差すと、ちら、と視線をそちらにやったあきらくん。

「ほな、ここで待っとり。誰にもついてったらあかんよ」
心配そうにちらっと振り返るあきらくんに苦笑いで「うんうん、わかっとる」と手を振った。

スマホでTwitterを流し見してると「おーい」と石やんが笑顔でやってきた。さわやかイケメン。

「なまえちゃん、どないしたん?こんな時間に」
「化学の追試やってて、ほんならさっきあきらくんが送ってくれはるーて「なまえちゃん」あ、」

着替え終わったらしい、あきらくんが石やんの後ろからぬっとやってきて私の腕を掴んだ。

「なにしとん、はよ帰るで」
「あ、うん、ごめん」
「じゃあまたな、御堂筋くん、なまえちゃん」
「うん!また!」
笑顔の素敵な石やんに掴まれてない方の手をぶんぶんと振っていると
「そないいつまでも手振らんでええやろ」とぐいっと引っ張られた。痛い。
「うわ、ちょ、引っ張らんといて!」

ぺしん、と腕を掴んでくるあきらくんの手をはたくと腕を掴んでいた手が掌に移動した。え、なんや恋人みたいやわ。普通に手繋いどる。急なことに、戸惑ってると「あんな」とあきらくんが口を開いた。

「今日はしゃあないにしても、こんな時間まで残ってたあかんに?それと、誰にもついてくなって言うたはず「着いてってへんもん、話してただけ」なに?口答えすんの?」
「だってあきらくんさっきからお母さんみたいやわ」
「…誰がお母さんや」
「じょ、冗談やんその目怖いでやめて」


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