深夜12時過ぎ。

ごめん、会いたい

携帯に映し出された文字は私の心をぎゅっと締め付ける。

今は一人だよ。
わかった、すぐ行く。

恋をしちゃいけないことは分かっていたはずだった。私には花宮という恋人がいて、古橋は花宮の友人。それでも、古橋くんに会うたびに惹かれてしまう私がいた。

あの日、居酒屋でキスという過ちを犯した時から歯車は狂ってしまった。酔っていたとはいえゆるされない。それに、酔いはさほど強くなかった。意識だってあった。お酒を利用して花宮を裏切ったのだ。二人でトイレから戻った時、花宮はいつも通りの笑顔で「そろそろ帰るか」と言って私を送ってくれた。

花宮の優しさに甘えすぎたのかもしれない。きっと彼のことだから二人で時々会っていることも、私が古橋くんに惹かれていることも、全部知っている。それでも私を手放そうとはしない。

携帯の画面を消して、机に置いたままだった二つ分の冷め切ったコーヒーのマグカップを流しへ持って行く。茶色の液体が排水溝へ流れていく様子をただ見ていた。こんな風に全ての感情を流せてしまえれば楽なのに。

呼び鈴が鳴り響いてハッとする。鍵を開けると開く扉。その先には、愛しい人。

「花宮は」
「二時間くらい前に帰ったよ」
「…そうか」

二時間前にはこの玄関に花宮の靴があったのに、今は古橋の靴がある。逃げるように部屋に入ると、後ろから優しく抱きしめられた。

喉の奥から乾いてくるみたいに苦しい。やっぱり言わないと。このままだと、溺れる。

「ねえ古橋くん、」

もう会うのはよそう、と続くはずだった言の葉は古橋くんの唇によって掻き消されてしまった。思い切り掴まれたかのように胸の奥が苦しくなるのは罪悪感、だろうか。ぎゅ、と抱きしめられた身体は動くことをやめてしまった。唇から熱が離れる。肩口に頭を埋めている古橋くんが、いま、どんな表情なのか、何を思っているのか、知る由もない。あの日、出会わなければよかったのに。「誰のものでも関係ない。なまえを、愛してる。そばにいちゃ、だめか?」

ただ、古橋くんの背中に腕を回した私が一番残酷だ。



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