高校時代の話をしよう。俺が名前と初めて話した日のことだ。

部活が始まる数分前、各々でボールを使って軽くウォーミングアップしていた時、原が山崎に投げたボールが誤ってこっちに飛んできた。「古橋!ボール!」と、原が叫んだが気づいた時にはもうボールは慌てて受け取ろうとした俺の手を掠めて新体操部のところへ転がって行った。新体操部といえば神聖な、汚れなきものというイメージだった俺は体育館の反面を使う新体操部の領域にいってしまったボールを取りにいくのを躊躇していた。

その時にボールに気づいて手渡してくれたのが名前だった。

「はい。ボール」
「すまない。ありがとう」
「いいえ。なんだか体調悪い?」
「え?」
「あ、ごめん。いつもより顔色悪いなって思っただけなの」
「…いや、大丈夫だ。」
「そ、よかった。じゃあがんばってね」
「ああ。ありがとう」

驚いた。まだ部活の皆にもばれてないのに、俺の体調不良が名前にばれるとは思わなかった。今まで然程意識していなかった名前を意識するようになったのはこの時からだったと思う。

いつもより顔色悪い、がんばってね、なんて名前にとっては取り止めもない言葉だったのだろう。しかし多感な男子高校生を悶々させるくらいには衝撃が大きかった。いつもより顔色悪いね、なんてそれいつも見てるよ、と言われたのと同じじゃないか。名前といえば派手で目立つ存在ではなく、すらっとのびた手足に柔らかい笑顔の持ち主で同性からも異性からも一目置かれる存在だった。そんな人に心配されたらあまり女子と関わらない男子高校生なら意識するのも仕方ないだろう。多分。

「おーい古橋?」
「あ、すまん。ボール」
「さんきゅ。って、さっき名前ちゃんと話してたよな?いいなー俺あの子に話しかけても流されて終わっちゃんだよね」
「そう、なのか。」
「どうした?熱でもあんの」
「…俺ってわかりやすいか?」
「いんや全く」
「だろうな。」
「え、何々ほんと大丈夫?」
「軽い風邪だ。気にするな」
「なんだやっぱ風邪引いてんのかよ。無理すんなよ?」
「ああ。」



それ以来ほぼ話すことなく三年間を過ごした。どうせすぐに忘れると思っていたが、社会人になってから再会するとは思わなかった。名前覚えられていなかったのは少しショックだったが四年間会ってなかったのだから仕方ない。今の名前もあの頃と変わらず綺麗だ。




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