「ナマエさぁ〜〜ん」 「はいはい」 「でへへへ〜〜」
いきつけの居酒屋のカウンターに座ってちびちびと日本酒をすする。 そんなおっさん臭い私にでれでれ笑ってもたれかかってくるのは恋人のテンゾウ。こいつはお酒好きなくせに弱くて酔うと絡んでくるからめんどくさい。カカシからさんざん聞かされてはいたけど、何回経験してもほんっっっとうにめんどくさい。
「ナマエさ〜ん、のんれる〜?」 「飲んでる飲んでる。テンはもうやめときなよ」 「えぇ〜ぼくまらこれかららのにぃ〜〜〜」 「うっせぇこれでも飲んでろばか」
と言ってとがらせてる口を無理やり開けて水を流し込むと、げほげほ咳き込んで涙目になってるから笑ってやった。日ごろの仕返しだ。
「…ひろいよナマエさん」 「ろれつ回ってないくせにそれ以上飲まないの」 「む〜〜」
任務中のきりっとした顔とは全く正反対の、親にだだをこねる子供みたいな顔をするテンに内心ほっこりしてるのは誰にも言わない。
「ごめん大将、そろそろお勘定で」 「えぇ〜〜ぼくまら足りないって〜〜」 「うっせぇ」
黙ってテンゾウの財布を奪ってそこからお勘定。これから家までこのへろへろ酔っぱらいを運ぶ手間賃だから私は全く悪くない。
「ほらテン、ちゃんと歩いて」 「ん〜〜〜」
心配そうな表情で見送りに出てきてくれた大将に別れを告げて、夏とはいえ肌寒くて心地よい家路をテンを支えながら歩く。
「すずしいねぇ〜」 「だねぇ」
そう言ってにへぇっと笑うテンはやっぱり可愛い。
「ねぇねぇ、ナマエさ〜ん」 「んー?」 「ぼくねぇ、ナマエさんのことだいすきらよ〜」 「…知ってるよ」
いつも居酒屋から一緒に帰るとき、テンゾウはこうして私に気持ちを伝えてくれる。きっと素面のときは言えないんだろうね、結構恥ずかしがり屋さんだから。お酒の力を借りてでも、テンゾウから出てくる言葉なら私はなんでも嬉しい。
「ナマエさんは?僕のこと、どう思ってる?」 「んー…」 「…」
酔ってるくせにこういうときだけ真面目な顔をして、アルコールのせいかいつもよりうるうるした猫目を私に向けてくる。この目に、私は弱い。
でも今日は運が勝ったのか、私が答えるより先に家に着いたから「ほら、靴脱いで」と催促してベッドに座らせる。
「ねぇ、ナマエさん。僕まだ、答え聞いてない」 「…」
ちょこん、とベッドに座って、やっぱり真っすぐ私を見つめる猫目に背を向けた。
こういうところでSっ気を出してくるから嫌いだ。私が言うまで寝ない気だもん。それに私は、あんまりこういうことを口にしないタイプだ。言いたい気持ちもあるし伝えてもらえるなら私も伝えなきゃとは思うけど、それよりもこっぱずかしさが勝って口には出ずにいつも後悔する。言えばよかったな、テンゾウは言って欲しかっただろうなって。
私ももういい年こいた大人だ。 恥ずかしい恥ずかしいで口ごもる年じゃないでしょ。気持ちってのは口に出さないと伝わらないんだよ。がんばれ、がんばるんだ、私。
あふれ出る羞恥をごまかすように、ぎゅっと服の袖を握る。
「…その、さ。テン」 「…」 「……す、」 「…」 「……すき、だよ。テンのこと、ほんとに」 「…」
…言えた。 よくやった、私!言えたじゃないか!やればできる子だもんね、うん。私は私の可能性を信じてたよ。さあ、これでいつもは濁して流す私がちゃんと言ったからさぞかし驚いてるんだろうテンの顔を拝んでほくそ笑んでやろう。
むふふ、と自分でも気持ち悪い笑いを浮かべながら振り向いて、拍子抜け。
「…寝てるし」
ベッドなのに座ったまま、かくかくと舟をこいでいるテンゾウ。 ひとつため息を吐いてから、そんな目の前の愛すべきばかをベッドに横たえてやって、タオルケットをかける。ベスト着たままで寝たら暑いとか知るか。…でもヘッドギアだけは外しておいてあげよう。
私がこんなに必死になって気持ちを伝えたっていうのに、こんな大事な時にこいつは睡魔に負けた。
…ま、でも、言えたもんね私。 なら言えるさ。今度は、面と向かって。
すやすやと無防備に寝息を立てる大好きな恋人の頬に、気づかれないようにそっとキスをした。
明日になれば、
fin.
イブキ様リクエストで「酔っぱらいヤマトを介抱する話」ということで書かせていただきました。お気に入りいただければ嬉しいです。
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