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「…ん、」



ちゅんちゅん、なんて平和の代名詞みたいな小鳥の鳴き声でゆっくりと目を開けた。
久しぶりの非番。なんだかぐっすり寝た気がするのにまだこんな時間か。こんなに熟睡したのはいつぶりだったっけ?つい昨日まで任務詰めで帰ったらくたばるようにベッドに入って、気づけば朝でまた任務。一ヵ月ちょっとそんな生活だった気がする。



「うわっ」



何の気なしにぐるりと寝返りを打てば、視界一杯に広がるのは私の大切な人の寝顔で思わず声をあげた。
いつも私のすべてを見透かすようなあの大きな猫目は閉じられてて、あどけない表情でぐっすり眠ってるヤマト。それなのにちゃっかり片腕は私を包んでて、ああ、だから私もこんなに熟睡できたんだと納得する。


ヤマトとは付き合ってもうすぐ五年。
五年かあ、もうそんなになるっけ。あっという間だった気もするし、すんごく長かったような。そんな不思議で、でもとても幸せな五年だったなぁ。ヤマトがまだテンゾウとして暗部に所属してた頃から始まった関係。カカシさんの代理で正規部隊に異動になって、正直ほっとしてた私がいた。

暗部はとても、重い任務が多い。
ヤマトはずっと暗部にいたから気づいてないかもしれないけど、いつもどこか苦しそうなつらそうな顔をしながら任務に向かっていた。私は隠さずに頼ってほしかったけど、ヤマトは”大切な君にまで背負わせたくない”って言ってたっけ。それでもどうしてもってときだけヤマトは黙って私に抱き着いてきたから、微かに震えながら私の肩に埋めた頭を優しく撫でるのがいつもの光景。

もしかしたら、ヤマトはヤマトなりに私に頼ってくれてたのかもしんないなぁ。そう思えば、今のこの無防備に眠っているヤマトが途端に愛しくなって、思わずそのおでこに軽いキスをした。



「…ナマエ?」
「!…ごめん、起こしたね」
「ううん、大丈夫。おはよ」
「おはよう」



気付かれてなさそう、よかった。
そんな風に思いながらまだ寝足りなそうに開いた猫目に優しく笑いかける。とすぐにへにゃっと笑ったヤマトは女の私から見ても可愛い。



「可愛いより、格好良いがいいな」
「…またそうやって人の心を読む」
「ナマエってばわかりやすいから」



ずっとお腹に回ったままだった腕をぎゅっと引いて私を抱きしめる。
甘えたさんなのがやっぱり可愛くて空いた手で寝ぐせが爆発してる頭を撫でれば、私の胸に顔を埋めてはあ、と息を吐いたヤマト。温かい息が胸にあたってくすぐったくて、くすくす笑った。



「ね、ナマエ」
「んー?」
「僕と家族になって」
「……はい?」



くぐもってるのにはっきり聞こえた声にぱっと離れれば、今まで見たことのないような幸せそうな猫目が私を見上げてるわけで。



「朝目が覚めてナマエがいるだけで幸せなんだ。だから僕と家族になろう」
「ちょっと待って、え、ちょっとパニックなんだけど」
「僕きっとナマエ以上に大切な人に出会えないと思うんだ。ナマエ以上に甘えられる人にも出会えないと思うし、一緒にいたいと思う人にもきっと出会えないと思う」
「…」
「無防備に寝てる僕のおでこにキスをする人にもね」
「…気づいてたわけね」



はあ、とため息をついて未だに抱きしめられたままのヤマトを抱き返して、その肩に顔を埋め返した。ぴったりくっついてるところから感じるのは、いつもよりいくらか早いヤマトの鼓動。そしたらやっと事態を飲み込めて、いつの間にか体に入ってた力を抜いた。そして深く息を吸って、大好きなヤマトから香る木の匂いで肺をいっぱいにする。



「ほんっと、どうしよう私」
「…」
「…嬉しすぎて、言葉が見つかんないのが悔しい」
「!それって…」



がばりと体を離されてようやく顔を見れば、私の大好きな猫目をこれでもかと見開いてるヤマト。ちゃんと顔をみえるように自分でもしたことないぐらい優しく微笑んだらどんどんその瞳が潤んでいって、また元通りに私の胸にぽすんと顔を埋めて今度はぐすんぐすんと鼻を啜りだした。



「あーもう泣かないでよ。私イエスって言ったんだんだよ?なんで泣くの」
「…これはうれし泣きだからいいの」
「…そう」



がっしりとしたこの背中をぽんぽん、とあやすように叩きながら、このちょっぴり泣き虫で、世界で一番大切な人とともに歩んでいく未来が楽しみだな、そんなことを思った。








fin.

匿名様リクエストで「ヤマトと家族になるor家族が増えるお話」でした。お気に入りいただければ嬉しいです。



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