「ナマエさん」 「…」 「ねぇ」 「…」 「ナマエさんってば」
目の前のローテーブルでやっと慣れ始めたパソコンをカタカタと打ちながら煙草をくわえる恋人のナマエさんにひっつきながら何度も声をかける。
大戦が終わってもう長い時間が経った。カカシ先輩が火影になってもう何年になるかな? その数年の間に木ノ葉の里もいろいろな面で近代化が進んだ。電子レンジや洗濯乾燥機など便利な家電類、子供たちが夢中になってる持ち運び可能なゲーム機の普及、そして目の前のナマエさんが食らいついているパソコンもそのうちのひとつで。
数年前なら連絡は巻物を使ったり鷹を飛ばしたり、報告書に関してもペン片手に机にかじりついて必死で書き上げてたりと今でいうアナログなものばかりだった。もちろんそんなものも残ってはいるけど、今では主に連絡はメール、報告書はパソコンで火影様へ直接送る、というようにどんどんと機械化が進んでいて。僕はまだ前者だけど。
だから今ナマエさんは、昨日の任務の報告書を書き上げるべくパソコンに向かっているわけで。
「ねぇナマエさん」 「…なに」 「僕今日三カ月ぶりの休みなんだよ」 「うん」 「三か月ぶりに里に帰ってきたんだよ」 「そうだね」 「ねぇ、僕に会いたくなかったの?」 「…」
一応返事はくれるようになったけど、やっぱり目線はパソコンに向かったまま。たまに変わると言えば、咥えた煙草の灰を灰皿に落とす時ぐらいかな。…こんなことを僕が言うのは似合わないってわかってるけど、寂しい。
「ねぇテンゾウ」 「ん?なに?」 「もうすぐ終わるから、ちょっとだけ黙ってて」 「……はい」
もみ消したばかりなのに新しい煙草に火をつけたナマエさんはそう言ってまたパソコンにかじりついた。
この光景を見てもう何時間だろう。見飽きてしまった。ナマエさんは相変わらずパソコンに…ってなんだかパソコンに嫉妬してる?こんな僕って相当情けなくないか?
いっそあんなパソコン木遁で木に変える?いやでもナマエさんが高かったって言ってたし、その前にそんなことしたら二度と会ってもらえなくなる。
このままナマエさんにひっついててもうっとおしがられるだけだから、と思って立ち上がってキッチンでコーヒーを淹れる。コポコポと音を立てるとコーヒーの香りが部屋中に広がって心が安らぐなぁ。
「…ふぅ。終わった」 「お疲れ様」
ちょうどカップを持って戻れば、うーんと伸びをして煙草をもみ消してパソコンを閉じたナマエさんに甘めのカフェオレを差し出す。疲れたときには甘いもの、ってね。そっとナマエさんの隣に腰を下ろしてブラックコーヒーを飲んでいるとおもむろに僕の肩を触ってくるナマエさん。
「冷た!ちょ、あんた肩冷えてる!毛布毛布!」 「え?」
まぁ、そりゃ春だから昼間は暖かいって言っても夜は冷えるもんね…ってもう夜?昼間はぽかぽかしてたから薄着してたけど、まさかもう日が暮れてるなんて。そんな僕にどこからか引っ張り出した毛布をかけたナマエさんは呆れた顔をして僕を見てる。
「テンゾウ…あんた任務のときは冴えてるのにプライベートって本当に抜けてるよね」 「…すみませんねぇ」 「ま、いつものことだけどさ」
と言いながら毛布越しに僕を横から抱きしめてくんくん匂いを嗅いでいるナマエさん。匂いフェチの本領発揮だ。
「テンゾウ、やっぱいい匂いする」 「コーヒーの匂いじゃないかい?」 「ううん、暖かい木の匂いがするんだよ。テンゾウの匂い」 「…へぇ」
「この匂い大好きなんだぁ」とまたくんくんと嗅いだかと思えば、今度は勢いよく離れて煙草に火をつけたナマエさん。
…言わずもがな、僕の彼女はツンデレだ。
「ナマエさん、お腹すかない?なにか食べに行こうよ」 「んー…じゃあ久しぶりに一楽でも行こっか。なんか今日はがっつりラーメンって気分」 「…一楽かぁ」
あそこのラーメンはたしかに美味しいけど、ちょっと脂っこいんだよなぁ。 そんなことを思ってれば煙草を揉み消してよいしょ、と立ち上がったナマエさん。どうやら目的地は一楽に決定らしい。…諦めて立ち上がる。
「ねぇ、テンゾウ知ってた?」 「なにが?」 「一楽ってね、この間あっさり系のラーメンも出たんだよ」 「!」 「ほら、行こう!」
にかっと子供みたいに笑ったナマエさんは僕の手を掴んで歩き出した。
なんだかんだ僕のことを考えてくれているナマエさん。 こんな彼女を僕はずっと大切にしたい。
これが僕たちの日常
fin.
蒼村様からのリクエストで「新作ヤマト短編でほのぼの」でした。 蒼村様、リクエスト本当にありがとうございました!私なりに精一杯書かせていただきました!このお話が蒼村様のお気に入りになれば嬉しいです!
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