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「…ったく、カカシ先輩も人の金遣いが荒いんだから」



昼すぎに任務を終えて、腹を満たそうと定食屋に向かう道中で運悪く出くわしたカカシ先輩。「テーンゾ、いいところに来たよ。これ、よろしくね」と語尾にハートがつきそうな勢いでウインクまでかまして、先輩が食べたラーメン代を払わせられた。そのまま昼食は一楽ですませて、先輩に引きずられるようにいろいろ奢らされたわけだ。ナルトにあげるという野菜代しかり、サクラに頼まれたっていう薬草代しかり。…先輩は僕のことを財布か何かだと思っているんだろうか。

「やっぱりお前は俺の一番信用してる後輩だよ」
「…ま、俺の後を任せられるのはやっぱりお前だけだな」

そんな口車に長年乗せられ続けてる僕も僕だと思うけれど、いつも後から冷静になってそう思うだけで、その場では先輩のバカみたいにうまい口車に乗せられて気分が良くなってしまう。…だからダメなんだとは自分でもわかってるんだけどね。


そんなこんなでわりと散々な目にあったから、そろそろあの子に会いたい。
ここ一ヵ月はお互いに任務が詰まっていて、朝に少しと運が良ければ夜に少し会えるくらい。でもそろそろ充電も切れそうだし、明日は久しぶりの休みだ。今日はあの子の家に行ってみよう。

考え出した途端にゆるむ頬を引き締めて、恋人の家への慣れた道のりを進んだ。



*  *  *



「もうすぐ…会える……むふ」



あ、今気持ち悪いとか思ったかい?
それなら安心しておくれ。たった今僕も自分自身にそう思ったところだから。

そんなことはいい。あの角を曲がれば、すこしであの子の家だ。
ああ、なんでこんなにどきどきするのかな。もう何度もこの道を通ってあの子の家まで行ってるというのに。



「――さんのことが好きです!!」
「!」



角を曲がる直前、青年くらいの男の子の必死な声が耳に入った。
へえ、告白かあ。青春だなあいいなあ。…あ、でもここで僕が後ろを通りかかったら邪魔にならないかな?
ご丁寧にもそんなことを考えた僕は、その場で立ち止まる。



「…もしよければ、俺と、お付き合いして下さい!!」
「…えっと、あの…あり、がとう」
「!!」



…え?もしかして、告白されてるのって…ナマエちゃん!?
この僕が愛しの恋人の声を聞き逃すはずはない。あの声はまぎれもなくナマエちゃんの声だ。…でも、ありがとうって、言ってなかった…?なんで…。ナマエちゃんには僕っていう恋人がいるのに。ナマエちゃんだって僕に会うと嬉しそうにしてくれてると思ってたのに。

…まさか、そう思ってたのって、僕だけ……?



「…でも、ごめんなさい」
「!」
「え?」
「まだ日は浅いんだけど、お付き合いさせてもらってる人がいるんだ」
「…そう、ですか」
「その人を大切にしたいから、だから、あなたの気持ちには応えられません」
「…」
「だけどあなたはきちんと自分の気持ちを伝えられる人だし、きっといい人が見つかるよ。応援してるからね」
「…っ、ありがとうございます!」



「失礼します!!」
そう言って僕の横を走り去っていく男の子は、さわやかで、とても良い感じの子だった。

…もしかしたら、ナマエちゃんは、僕なんかよりもああいう子のほうがいいのかもしれない。



「なにしてるんですか?」
「!?」
「さっきからずっとそこにいたでしょう?…もしかして、今のも聞いてました?」
「…あはは」
「それなら、ヤマトさんがそんな顔することはないでしょう」
「え?」



僕と向かい合う位置に立った彼女は、慈しむような表情を浮かべて僕の頬に手を添える。



「私は、ヤマトさんを大切にしたいと思っています」
「!」
「ヤマトさんを幸せにしたいとも、ヤマトさんに笑顔になってほしいとも」
「…」
「だから、ヤマトさんが不安に思うことなんてありません」
「…っ」
「ヤマトさんが嫌だって言うまで、私はあなたのそばにいます」
「ナマエ、ちゃん…っ」



そんな女神のような優しさを向けてくれる彼女に涙を潤ませながら抱き着けば、「ヤマトさんはよく泣きますねえ」なんて笑いながら僕の背中をぽんぽん、と撫でてくれる。



「ヤマトさんヤマトさん」
「…なんだい?」
「私ね、今日夕飯を作ろうと思うんです。食べていきませんか?」
「!…ありがたくいただきます」
「よかった!ではさっそく行きましょう」
「え、あ、ちょっ!」



意外と力が強い彼女に腕を引かれて歩を進めながら、僕だって君を幸せにしたいよ、と心の中でつぶやいた。







fin.

イブキ様リクエスト「恋人が告白されているところに遭遇してどぎまぎするヤマトの話」ということで書かせていただきました。お気に入りいただければ嬉しいです。



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