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「はーいカカシさん帰りますよー」
「やら。もうちょっとのむ」
「ねぇ見えます?この一升瓶の山。これ空けたのカカシさんですよ」
「やら。もうちょっとのむ」
「…ハァ」



山積みになった空き瓶を隣に、机にほっぺをこんにちわしながら我が儘を言うカカシさん。いつもの眠たげな眼はいつも以上に開いてなくて、口布を下げたままの顔はほんのりと赤い。こんな様子のカカシさんに一緒に飲んでたヤマトさんは苦笑いで「ナマエちゃんが来たなら僕はここで」って帰っちゃった。それにしても普段こんなに飲む人じゃないのに、何か嫌なことでもあったのかな?そうは思っても聞けないのが私なわけで。



「ほら、もう閉店時間過ぎてますから。帰りますよ」
「やらってば!おれはまらのむの!」
「いい加減にしなさい!!大の大人が我が儘言わない!」



机にお勘定を叩きつけて、苦笑いの大将に頭を下げてカカシさんを引きずるように店を後にする。


夜風が涼しい帰り道。
肩を支えるカカシさんは「まらのみたいのに…」とさっきからぐちぐちうるさい。これ以上飲むと明日の任務にも支障出るでしょうが。



「もう日付変わってるんですよ。明日も朝早いんでしょう?」
「…そうらけど…ひっく」
「それにしても、こんなに飲むなんて珍しいですね。何かあったんですか?」
「…」



一緒に並んでカカシさんの家に向かいながらそう聞いてみたけど、カカシさんはぎゅっと口をつむって話してくれない。そんな様子にひとつため息を吐く。



「私に言いたくないことなら無理には聞きませんけど、もうこんなになるまで飲まないでくださいね。心配でいてもたってもいられないので」
「…うそつき」
「はい?」



ぼそっと言ったカカシさんの言葉に顔を見ると、拗ねたようにそっぽを向いてる。え、なに、私なんかした?



「私カカシさんにうそつきって言われるようなことしてないと思うんですけど」
「…うそつき」
「いや、だから何もしてませんって」



やましいことは何一つない。
カカシさんとお付き合いさせてもらうようになってから、いや、正確にはその前もか。何もした記憶もないし、身に覚えが全くない。なのにカカシさんはずっと私のことをうそつきっていう。…解せぬ。



「私、なにかしました?」
「…いいや」
「じゃあなんで拗ねてるのか教えてくれませんか?」
「…」



無理には聞かない、とはいったものの。カカシさんが拗ねてる原因が私にあるから聞かないわけにもいかないわけで。何か私に直すところがあるなら直したいから、隠さずに教えてほしい。


一向に言う様子のないカカシさんからの返答を待っている間に気付けば彼の家の前。
ふらふらな足取りで私から離れて鍵を開けようとするものの、目がほとんど開いてないので見えないから何度もスカスカ空ぶってる。そんな様子を見て彼から鍵を奪って扉を開ければ、玄関に倒れ込むように寝転がったカカシさん。



「え、ちょっと!ここで寝ちゃダメですよ!」
「ん〜」
「まさか本当にここで寝る気!?ダメダメ!起きてカカシさん!」



ぺちぺちと頬を叩いても無反応なカカシさんの脚絆を無理やり脱がせて、また引きずるようにベッドに放り投げた。ぱんぱん、と手をはたいて彼の方を見れば、すやすやと気持ちよさそうに寝ている。

…結局、拗ねてる原因は教えてもらえなかったけど。
まぁいいか。明日か明後日にでも、次に会えた時にまた聞こう。そう思って「おやすみなさい」と呟いてから帰ろうとすれば、きゅっと腕を引っ張られる。

あれ、いつの間に掴んでたんだと思ったのもつかの間。
さらにいつの間にか、私の身体はカカシさんの眠ってるはずのベッドの上。



「…なんだろう、この状況」
「…」
「あのう、カカシさん?なにがどうなってこうなってるんですかね?」
「…」



後ろから私を抱きしめたまま、背中に顔を埋めて一言も話さないカカシさん。そんな彼の私のお腹に回った腕を撫でながら、もうなんでもいいやと優しく声をかける。



「それで、いったいなにがあったんですか」
「…」
「言ってくれないとわかりませんよ」
「……今日の昼、」
「ん?」



相変わらず背中に顔を埋めたまま、さっきよろしくぼそぼそと言う。
聞こえづらくて聞き返すと、彼はさっきよりももっと私の背中に顔を埋めた。



「今日の昼が、なんですか?」
「……茶髪の中忍に、告られてたでしょ」
「!」



え、ちょ、なんでカカシさんがそれ知ってんの?あの時間は任務で里にいないはずじゃなかったっけ?いや、あ、そうか。そうなんだ。やっと今カカシさんが今日あれだけ飲んでた理由がわかった気がする。

何が悪かったか懸命に思い出そうとうんうん唸ってると、私から離れたカカシさんが背を向けたのがわかる。…こりゃ拗ねたな。だけど私も寝返りを打って、いつもより小さく感じる背中を見つめながら口を開いた。



「カカシさん」
「…」
「たしかに告白されました、今日のお昼に。茶髪の中忍の男の子に」
「…」
「でも、その様子だと最後までは聞いてないんですよね?」
「!」



なけなしの勇気を振り絞って、目の前の背中に抱き着いた。
さっきのカカシさんと同じように、その背中に顔を埋めたまままた口を開く。



「ちゃんとお断りしましたよ」
「…」
「私には大切な人がいるから、その人だけを好きだからごめんなさいって」
「!」
「…不安にさせてしまったなら、ごめんなさい。だけどこれだけは信じてほしいです。私が好きなのは、カカシさんだけです」



あ、なんだろうこれ。めっちゃ気持ちいい寝そう。
カカシさんの背中に抱き着いたままそう言って、酔っ払いだからちょっぴり高い体温ととくとくという心臓の音を聞いてたらだんだん瞼が重くなってくる。あと3秒で落ちるそんなときに、抱き着いた背中が勢い良く動いた。



「……じゃあ、なに?俺の取り越し苦労ってこと?」
「…ですね、だからさっきのうそつきって言葉は撤回してください」
「ごめんなさい」



今度はお互いに正面切って抱きしめあいながらそんな憎まれ口を叩いてみる。これはこれで気持ちいいかも。めちゃくちゃ落ち着く。
誤解も晴れてすっきりした心を引っ提げて、そのまま眠りについた。








(あ、そうだカカシさん)
(ん?)
(理由はともあれ今日から一ヵ月禁酒で)
(……はい)

fin.

イブキ様リクエストで「酔っぱらいカカシを介抱する&恋人が告白されているところを見てどぎまぎするカカシの話」ということで書かせていただきました。お気に入りいただければ嬉しいです。



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