「…い、今、なんて…?」 「…だから、ここにいるの。先生と、あたしの子供」 「……」
改めて答えたあたしの言葉を聞いて、先生はゆっくりと顔を伏せる。 その瞬間、あたしの身体からどんどん血の気が引いていった。
やっぱり、先生は喜んでくれないんだ。 …それもそうだよね。毎日里や仲間のために寝る間も惜しんで働いてるのに、そのうえであたしが妊娠したなんて知ったら心配性の先生はもっと無理することになっちゃうもん。
途端に滲みだした涙をごまかすように拭って、あたしは笑う。
「…ごめんね、先生」 「…」 「あたし、ひとりでも、産んでいいかな…?」 「…」 「…っ」
黙りこくったままの先生に、拭ったはずの涙がまだ溢れそうになる。
大好きな先生との子供を、絶対に産みたい。 先生が認めてくれなくても、あたしはひとりでも絶対に産んで育てる。だってあたしは、この子の母親だ。
「……先生…?」 「…」 「…もしかして…っ!」 「…」
俯いたままの先生の肩が震えてるような気がして声をかけたら、そのまま抱きしめられた。
「せ、先生…?」 「…おまえはそうやって、またひとりで抱え込む」 「…え?」
背中に回った腕に力が入った気がして、体をよじって抜け出そうとするけどピクリとも動かない。 そしてあたしの肩に顔を埋めた先生は、ぽつりとつぶやく。
「なんで、おまえがひとりで育てることになってんの」 「…だって先生、嫌なんでしょ?」 「…は?」 「毎日帰ってこれないくらいしんどい仕事してるのに、あたしが妊娠したって聞いたら先生もっと無茶しちゃうもん。せっかく仕事がうまく行ってるのに、今子供が出来ても先生は嬉しくないでしょ?」 「…」 「だから、言おうか迷った。先生が賛成してくれない気もしたから、だから…」 「…はぁ。おまえほんとバカ」 「…は??」
なんだかとても心外な言葉が聞こえてきて顔を見ようとしたら「今は見ちゃダメ」って放してもらえない。
「どうやったら、俺がおまえとの子供ができたのに嬉しくないなんて思うっていう考えにたどり着くわけ?」 「…だって、」 「…嬉しくないわけ、ないでしょ」 「!」
ぽつりとそう呟いた後、先生は鼻を啜った。
「…先生、やっぱり泣いてるの?」 「…泣いてないよ」 「うそ。絶対泣いてる」 「……ああそうだよ泣いてるよ。嬉しすぎて涙が止まんないんだよ」
「だから今は、顔見せらんない」 どんどん鼻声になっていく先生の、いつもよりちょっと小さく感じる背中をそっと撫でた。
普段はあたしにも弱いところを見せない先生が、泣くほど喜んでくれるんだ。先生の父親になるっていう夢を、叶えられるんだ。そう思うと、嬉しくなってきてあたしまで泣けてくる。
「…ナマエ」 「…ん?」 「……ありがとう」
くぐもってるし微かな、だけどはっきり聞こえたその声に、ついにあたしの涙腺も崩壊した。
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