「はじめまして、こんにちは」



日が落ち始め、夕暮れに染る教室で私は1人空き教室でフルートを吹いていた。
部活動はもうとっくに終わっていたが、今日のおさらいをしたいからと顧問の先生に頼みこの空き教室で練習をさせてもらっている。
一通り練習が終わり時間を見ると下校時間まであと10分もないことに気がつく。

「まずい、もう時間全然ないじゃん!」

椅子から勢いよく立ち上がりフルートを簡単に手入れをし、そっと楽曲ケースの中へ仕舞う。
急いで楽譜をスクールバッグに詰め込んで、肩にかけ、両手で楽器ケースを赤子のように大事に抱え教室を出る。下校のチャイムが鳴り、焦る私は急ぎ足で階段を駆け下りる。

それがいけなかったのだろう。
階段の途中で足を踏み外し、私の体が中に浮く。
最悪なことに階段の1番上の方からのため、このまま下に落ちたら大怪我をするのはすぐに頭で理解出来たが、生憎両手がふさがっており受身を取る事が出来ないため、この後に来る衝撃と痛みを覚悟して目をつぶるしかなかった。

「っ……!」

ぼふんっ。

(あれ、痛くない?)

そっと目を開けると、知らない顔の男の子が私の下敷きにされ、苦悶の表情で小さく唸っていた。
この人が私を庇って下敷きになってしまったのを直ぐに理解すると、慌てて男の子から離れ頭を下げる。

「何方かはわかりませんが、すみませんでした!急いでいたとはいえ、階段で走るのは良くないですよね。本当にすみません。助けてくださってありがとうございます。」

頭を下げながら謝罪と感謝の言葉を口にする。
男の子はそんな私を見て声をかけてくれたが、どうしたことか男の子の口から聞こえたのは日本語では無い言語。

「−−−−−。−−−?」

「えっ。」

英語でもないその言語に何を言われているのか分からず、下げていた頭を上げ男の子を見る。
よく見ると私服、にしては個性的で髪の色と目の色も違い、日本人では無いことがわかった。

そんな事より1番大事なことを見逃していたらしい私は、改めて自分が今いる場所を確認するようにぐるりと見渡す。
周りは石の壁で覆われており、所々壁画のようなものが描かれている。上の方を見ると天井が少し崩れており陽の光が差し込んでいる。
ここはどこかの遺跡なのだろうか?

「明らかに学校じゃ、ない。…どこなのここ。」

驚くことだらけで上手く脳が働かない。

「−−−?−−−、−−?」

男の子に再び声をかけられるも、日本語でも英語でも無い言葉に私はなんと返したらいいかわからず、曖昧な笑顔を返すだけになってしまう。

(こういう時言葉が通じない時はどうしたらいいんだっけ?確かボディランゲージか、もしくは…絵だ!)

ホームステイの経験がある友人から聞いた話を思い出し、肩にかけていたスクールバッグからノートとペンを取りだし、そこに私と目の前の男の子の簡単な似顔絵を描いていく。
男の子私のノートに興味があるのか、キラキラした目で覗き込んでくる。少し緊張し指が震える。
似顔絵を描きあげると男の子にそのイラストを見せ、自分と自分のイラストを交互に指を指し自分の名前を伝える。

「これ、わたし、レィリア。れぃりあ。」

男の子も理解したのか私の名前を繰り返す。

「れい、りあ?」

「そう、なまえ。君は?」

今度は男の子の似顔絵と男の子を交互に指を指す。
男の子は納得したように頷き言葉を紡ぐ。

「スレイ。」

「す、れい?」

同じ言葉を繰り返すと嬉しそうに彼、スレイは笑った。忘れないよう、似顔絵の下にスレイと名前を書く。

(うん、大丈夫。これならなんとかなる、よね?きっと。)

不安が無いわけじゃないけど、考えたってしょうがない事もある。それになんでここに来ちゃったのかなんて、多分今考えてもその答えなんて出ないだろうし。

そう考えていると上の方、天井より上から誰かが歩いてくる足音と声が聞こえた。少しして足音は止まり、天井の穴から人影が見えた。それを見つけたスレイさんはその人物に声をかける。

何を言っているのかさっぱりだけど、声と表情から興奮しているのが伝わる。多分「凄いものあったよー」とか「こっちにおいでー」とか言っている気がする。

私はもう一度天井の彼を見ると、今度はその彼と目が合った。
目が合った彼はすごく驚いた反応をしており、隣にいるスレイさんが急に私の両肩を掴みキラキラした目を私に向け、収まらない興奮のままに話しかけられる。少し早口で何を言っているのか、全く分からない。いや、ゆっくりでもわからないけれど。
ただ天井を指さして話しているから、天井の彼の紹介とかしてくれているのかな?と勝手に解釈をして、乾いた笑いを浮かべながら天井の彼に向けて手を振る。

(あと両肩を揺するの早くやめて欲しいです。目が回っちゃう。)

私が開放されたのは天井の彼がこちらに降りてきた頃だった。近くで見ると歳は私と変わらない、線の細く華奢でガラス細工のような繊細さを彼から感じる。
でもスレイさんとやり取りしている彼は年相応の男の子見えてすごく親近感が湧いた。
ただ、何故か目が合うと睨まれるので、すごく警戒されていてる気がした。彼にとって私はあんまり良い印象じゃないのかも。

居心地の悪さを感じて端っこにあった岩に腰掛ける。他にすることも無くて、ゆっくりこの遺跡の壁に書かれた絵を見る。
人々が祭壇のようような場所に供物を捧げ祈りを捧げている。
祈りを捧げる人々の傍らにいるのは音楽隊だろうか?色々な見た事ない楽器を奏でている。その中で細い棒のような楽器を奏でる女性が一人、その音楽隊の先頭に立っていた。

「これ、フルートかな。えへへ、ここにも親近感発見。」

気がつけば岩から立ち上がり、遺跡の壁画を夢中で見ていた。よく見たらこの壁画の縁には5本の線と小さな丸が点々と書かれている。

「楽譜なだよねこれ、凄い。って事は祈りを捧げた時に使われた音楽の譜面なのかも!」

指で譜面をなぞり、その音を頭の中で捉えていく。音が音楽となって私の頭の中で完成していくのを楽しんでいるところで急に肩を叩かれた。
振り返ると話し合いが終わったスレイさんと先程の男の子がこちらを見ていた。

「レイリアーー、ー。ー?」
「うん?」
「ーーー、ー。ーー。」

スレイさんがもう1人の彼を指を指しなにか伝えているのはわかった。恐らく自己紹介的なこと。スレイさんの意図を汲み取って手に持っていたノートに彼の似顔絵を書いていく。出来上がった似顔絵を見せたらスレイさんは笑ってミクリオと言った。

「ミ、クリオ?」
「ー。」

男の子にミクリオと口にすると短く返事をしてくれた。忘れないように似顔絵の下にミクリオさんと記入して、前のページを開き私の似顔絵を見せながらレィリアと教えれば彼もレィリアと呼んで応えてくれた。笑顔で返せば、彼にはまたそっぽを向かれてしまった。

(やっぱり私、ミクリオさんにあまり好かれてないのかも。)



  | back |  

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -