3話



家に戻った私は一人黙々と旅支度をしていた。
初めての下界だし何があるか分からないため、念入りに用意しなくてはならなかった。地図も天遺見聞録を参照とした古いものしかなく、これは自分で書き足していくしかないだろう。
荷造りをしながら先程貰った荷袋を開ける。

「そういえばまだ手紙以外ちゃんと見てなかったや…。」

中身を開けてみればケープのような服と、白いスカーフ、スカーフリング、小包、そして最後に液体が入ったボトルだった。

服は着てみると私のサイズに丁度よく、後ろには鳥と歯車をモチーフにしたような紋章が描かれていた。
もしかしたら鳥の詩と関係があるのかもしれない。
だとすれば、これを着ていればこの紋章について知っている人が声をかけてくれるかもしれないし好都合だ。スカーフはこの服に合わせて付け、スカーフリングを通し固定する。このスカーフリングには青い宝石のような石が付けられており光を反射してキラキラとしている。
石をよく見ればうっすらと服とと同じような紋章が掘られていた。

「もしかしてこの石、アミュレットとかなのかな?」

次に小包を開けてみると、中はアップルグミやライフボトルなどの貴重品だった。

そして、最後に液体の入ったボトルだけど、これは少し怖い。少なくとも10年はこの荷物と一緒にあったものだし、中身はダメになっているかもしれない。でも捨てるのは少し躊躇ってしまう。これがもし私の記憶と関係しているなら無視できないものになってしまうからだ。考えた結果、持っていく事にした私はそっと荷袋にボトルをしまった。

荷造りをしながらまだ片付いていない問題について頭を悩ませていた。
幼馴染の二人には実は何も話していなかったのだ。ジイジに私の事について聞きに行っている事とか、この杜を出ていくつもりだった事とか。
話す機会がなかったわけではないけれど、毎日遺跡に行っては色々と見つけた物や発見した事について楽しそうに話している二人に水を差したくなかった。

(とはいえ、スレイとミクリオにちゃんと旅に出る事を伝えなきゃなぁ。多分ミクリオは拗ねて、僕たちより先に世界を見て回るなんてズルいって言うだろうけど。)

そんなことを考えながら窓を見ると暗い雲がたちこめていた。
ただこれはただの雨雲とは違い、雷を伴う積乱雲。ただあまりにも急で自然に発生したものとは違う…。

「これって侵入者への、警告?」

私は慌てて外へと飛び出し、辺りを見渡す。
先程より天候が悪化しており、今にも雷が落ちてきそうだった。
恐らくまだ、スレイ達は遺跡探検からまだ帰ってきてない。
大丈夫だとは思うけど、いてもたってもいられない私は、気がつけば遺跡の方へと足が動いていた。

「スレイー!ミクリオー!
…全く、遺跡の奥ってどこまで行っちゃったの?」

大声で呼ぶが返事が返ってこない。
もしかしたら遺跡の中で外の異変に気づいていない可能性もある。

(もしそうなら早いとこ見つけて知らせないと。)

そう思うと近くにあった遺跡への入口が目に入る。
迷っている暇はないと、自分の勘を頼りに幼馴染がいそうな遺跡の中へと足を踏み入れた。

遺跡の中は湿っており、薄暗い廊下が続いている。しばらく歩いていると一枚の大きな石版があり、行き止まりとなっていた。
落胆しそうになるが、長い廊下の先が一枚の石版があるだけで本当に終わりなのだろうか?
少なくともここを作った人間がこの石版のためだけに長い廊下を用意するだろうか?
そう思って石版をじっくり見つめる。
石版に描かれているのは3人の女の人と一人の巨人。巨人の手にはなにかの果実のようなものを持っている。

「これ、いつの時代のものなの?3人の女と巨人が出てくる話なんて聞いたことがない…。」

そして石版を見ていくと石版の左端に一部のでっぱりを見つける。まるで取っ手のようなそれにひとつの仮説を立てる。

「いや、流石にそれは無い。もしそうだとしたらこれを作った人はかなり意地が悪い。もしくはかなり強靭な人だよ。」

呆れてしまうけれど、まずは自分の仮説が正しいか立証しようではないか。
身につけているスカーフを取り石版の下に近づけると、微かに風に揺れる。それも外からではなく中からの風で揺れている。

「これ、本当に石版じゃなくて石扉だったんだ…。でも、こんなの動かすことが出来る人間なんてそう簡単にはいないと思うんだけどなぁ。」

はぁ、と一つため息をつくと石扉の取っ手に手を掛けた。

こんな分厚い石の扉は、普通の人間ならまず動かすのは不可能だろう。
しかし、自慢では無いがイズチで1番の力持ちはジイジでもスレイでもなくこの私なのだ。
それも普通の人間ではありえないような怪力で、大岩を持ち上げる事も砕く事もできてしまう。そんな化け物じみた力が私にはある。

扉に掛けた手に力を込め、石扉を引くが想像よりもずっと扉は重く、ビクともしない。両足を踏ん張らせ身体全体の力を使い扉を引けば、ようやく石の擦れる音を立てながらゆっくりと開いた。

「こんなに質量を感じるなんて、この扉、本当に誰かに開けさせるつもりあったのかなぁ……?」

疑問に思いながらも中に入る。
部屋の真ん中には砕かれた祭壇と、祭壇と傍らにハンマーが立てかけられた。奥の壁には壁画があり、山を割く巨人の絵が描かれていた。この巨人は足扉の巨人と同じように思える。そしてその巨人の片手にはハンマーが描かれており、それは祭壇に置かれているハンマーととても似ていた。

「もしかしてこれ、ものすごい発見しちゃった!?このハンマーもしかして凄い伝説の武器とかなのかな?
それに壁画の巨人は本当にいたのかな。でも巨人伝説なんてどの文献にものってないし、もしかして世紀の大発見しちゃったかも!?
ああ、でも今はこんなことしてる場合じゃなくてスレイとミクリオを探さなきゃなのに…。
でも少しくらい調べても…、いいやダメダメ今はふたりが最優先!
でも……。」

ちらちらと壁画とハンマーを見比べてうだうだしていると扉の前でカサリと音がした。
直ぐにそちらに目を向けると通常より何倍もの大きさの蜘蛛がこちらの様子を伺っていた。そしてその蜘蛛には黒いモヤのようなものがかかって見える。

「もしかして、憑魔?」

不幸にもこの部屋の入口は一つしかなく、その入口は蜘蛛によって塞がれていた。そして残念な事に武器になりそうなものは今は何も持っていない。祭壇にあるハンマーを除いて。

そうこうしているうちに蜘蛛は牙を向け襲いかかってきた。

「わっ!ちょっと待って!」

何とか間一髪で避けたがこのままでは不味い。
本来なら遺跡のものを勝手に持ち出したり、使ってはいけないのだけれど、そうも言っていられない状況のため祭壇に置かれたハンマーに手を伸ばす。

「申し訳ございませんが、お借り致しますね!」

ハンマーを手に取ると思いのほか軽く、不思議と手に馴染んだ。

(これならいけるかもしれない。)

私は迫り来る蜘蛛に対して思いっきりハンマーを振り下ろすが、蜘蛛は素早く避け、ハンマーは空を切ったまま床へと叩きつけられた。
その瞬間、ドォンっと地鳴りの音が遺跡全体に響き渡り、床にヒビが入る。
ハッとして、顔を青ざめるよりも早く床が抜けてしまい私は蜘蛛諸共、仲良く落下していた。

「嘘でしょーーー!!?」

叫び声をあげながら落ちていく中、なんとか体勢を整えようと必死に手を動かすが掴まれるものなどあるはずもなくただただ無意味に落ちていくだけだった。



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