プロローグ



暗い夜の森に打ち付ける程の大粒の雨が降る。時折黒い雲の隙間を縫って稲光が走る。
悪天候により視界が悪い森の中を慣れた足取りで獣道を駆けていく男の姿があった。
小脇に抱えられた大きめの荷袋を落とさぬよう気を配りながら男は後ろを見ると、二つの赤い光の点が男の後を追うように着いてきていた。

「……まずいな。つけてきたのか。」

そう呟くと男は走る速度を上げた。だが、それでも距離は離れるどころか縮まる一方だった。

「クソっ、お前らを相手にしてる時間は無いってのにっ!」

その時、男とソレの間に閃光が走る。地を揺らす衝撃と轟音が鳴り響く中、男は再び走り出す。

「あと少し、もう少しだからなレィ…。」

小脇に抱えられた大きな荷袋の隙間から、幼い少女の姿が見えた。
少女に意識はなく、唇が青ざめている。その顔色はまるで死人のようだが、それでも生きている証として浅い呼吸を繰り返していた。

森を抜け、ようやく山頂へと辿り着く頃には雨が止んでいた。
振り返る男の後ろに、もう追っ手の姿はなかった。
上手く巻いたのだろうと息をつき、歩き出す。

山頂には集落が築かれており、岩と民家が共存している様な建物がいくつかあった。
男は迷いなく集落の奥へと進んでいく。奥にある一つの民家に着くと男は息を整え、ローブのフードを取ると赤く燃えるような男の髪が風に揺れる。
控えめにドアをノックすると短い返事と共にドアが開かれた。
これから話さなければならない事、自分が犯した罪、そしてこれから自分が成すことへの決意を固め男は部屋へと入って行くのであった。


  | top |  

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -