5話



移動する道中で、私はミクリオからここに来るまでの経緯を聞かせてもらった。

「それで、その女の子ってどんな子だったの?私と同い年くらい?見た目は?可愛かった?この杜に来るくらいだから冒険家なのかな?ねぇ、ミクリオどんな子だった!?」
「そんな一遍に質問しないでくれ!」
「だって気になるんだもん!人間の女の子か、会うのが楽しみだなぁ…。」

レィリアはミクリオの話を聞きながら期待に胸を膨らませていた。

しばらく歩いたところで広く開けた場所に出た。
そこの部屋の真ん中には大きく底が見えないほど深い穴が空いていた。
その穴の向こう側にはとても大きな石像が鎮座していた。

「うわぁ〜。私が落ちた先がここじゃなくて良かった……。」

そこが見えない深淵を覗き込み、ぞくりと肩をふるわせる。

「それより、向こう側の右端、何か気づかないかい?」
「え?」

言われて目を向けると、そこには床に倒れ伏せている一人の女の子の姿があった。

「あ!もしかして、あの子がさっき言ってた人間の女の子!?」
「そう。だけどこの穴のせいで向こう側に行けないから、僕たちは別の道を通って向こう側に行ける方法を探していたんだ。」

ミクリオは困ったように言った。
確かに、これでは先に進むことができない。
私もミクリオと同じように困った顔で、腕を組み向こう側に行く方がないか考える。
するとスレイが凄く得意げな顔をして近づいて来ると「おほん!」とわざとらしい咳払いをしてみせる。

「ふっふっふー。何かお困りのようですね。」
「今は勿体ぶらないで欲しいかな。」
「それでは説明しよう!これをよく見たまえ!」

そう言ってスレイが指差したのは穴の中央付近。ただ、よく見ると砂が浮いているように不自然に残留している部分がある。

「あれって!」
「もうお気づきかな?」
「なるほど、透明の橋か!」

ミクリオの言葉に私はこくりと首を縦に振る。
どうやら、ここから反対側に渡るにはこの透明な橋を使うしか方法はなさそうだ。
でも問題はこの透明な橋が向こう側まで真っ直ぐ伸びているかどうかだ。これを頼めるのは彼しかいないと思いミクリオに振り返る。

「ミクリオ、橋を凍らせることは出来る?」
「勿論、そのつもりさ!」

ミクリオは得意げに笑顔を浮かべると橋に向かって杖をふる。
すると透明な橋は冷気に包まれ、みるみると氷で覆われていく。

「これでようやく向こう側まで渡れそうだね。」
「ありがとう!ミクリオ!」
「礼なんていいよ。それよりも早く行こう。」
「オレが最初に見つけたんだけどなぁ。」
「スレイも橋の事、教えてくれてありがとう。」

そう言うとスレイは満足したように満面の笑みを浮かべた。

橋を渡りきり、私達は例の女の子の元に辿り着いた。
女の子は意識を失っているようで浅い呼吸を繰り返している。命に別状はないようで、ほっとしているとスレイが女の子の傍により優しく肩を揺らす。
ミクリオがスレイに考え直すように声を掛けるがスレイはそのまま女の子に声をかける。
その一部始終を見ていたがカツンっと足に何かが当たり、下を見ると一本の槍が落ちていた。
恐らく女の子の持ち物だろうと思った私はそれを拾い上げる。
すると目を離していた間に意識を取り戻した少女はスレイに声をかけられ、戸惑いながら何かを探すように地面を見ている。
もしやと思い、近づいて槍を渡してあげれば申し訳なさそうにそれを受け取った。
まるで何かに怯えているような素振りを見せる少女に、なるべく優しく声をかける。

「暫く、ここで気を失っていたようですが、怪我などはされていませんか?」
「……はい、大丈夫です。」

そう答えると彼女は立ち上がり辺りを見渡す。
その間にミクリオが彼女に対してちょっかいをかけるが、まるで反応を示さない所を見ると彼女は普通の人間で間違いなかった。

「ほんとに大丈夫みたいだね。」
「ありがとう……心配をかけたようだ。それで、君達は?」
「私はレィリアと申します。彼ら、…いえ、彼は私の幼馴染の…。」
「あ、えっと、オレはスレイ。よろしく。」

少女はどこか気まづそうに視線を逸らす。

「レィリア、スレイ。この近くで落ち着ける場所はないだろうか?都まで帰る準備を整えようと思うのだが…。」

都と聞いて、スレイがぽつり「都から来たんだ…。」と呟いた。

「どうだろうか…。」

私たちの顔を伺う彼女の瞳が不安げに揺れる。
明らかに訳ありと言った感じだが、一人知らぬ場所で心細い思いをしている彼女に、これ以上負担を掛けるのは酷だ。

「それなら、私たちが暮らしている場所に来ませんか?ここから近いですし、商人などはおりませんが、旅に必要なものは私も一緒に手伝いますので揃えられると思いますよ。」

私の言葉を聞き、ミクリオが驚いたようにこちらを見る。

「おい!レィリア、それは!」
「いいじゃない?オレも彼女をここで放っておくには危険だと思うし。」
「それは、そうだが。」
「いいのか?何者とも知らない私を案内しても。」

俯く彼女の表情は見えないが、私は彼女の手を取り両手で優しく握る。少しでも彼女の不安を取り除けるように。

「大丈夫ですよ。貴女が誰であれ、私たちがそうしたいだけなので。」
「うん。困ってる人を放っておくなんて出来ないよね。」

微笑む私とスレイに少女は目を逸らし、一歩引いてしまう。
何かに警戒しているのか、それとも何か後ろめたさがあるのだろうか?その真意はわからないが必要以上に詮索をしては彼女の警戒心を深めるだけだと判断し、すぐにそれ以上深く考えるのはやめた。
しかしミクリオに関しては彼女に対し未だ警戒心剥き出しである。
私とスレイにしか声は聞こえていないが、その内容は否定的なものに加え、正当性のある言葉であるため耳が痛い。

「君達は、私の名前を尋ねないのか?」
「勿論、気にならない訳ではないです。ですが、無理にこちらから詮索はしません。」
「事情があるんだろ。悪いやつには見えないよ。」
「ありがとう。」

顔を上げた少女は感謝の言葉を口にする。
どういたしましてと、微笑む私とスレイにミクリオがボソリと「ジイジの雷は覚悟しておくんだね。」と呟いていた。その言葉に私もスレイも一瞬だが表情を固くした。
そんな私達をみて少女は不思議そうに首を傾げたため、何でもないと首を振って誤魔化した。

「さ、出口はこっちだよ。」

先に歩き出したスレイの背中を目で追いながら握っていた彼女の手を片手に握り直し、その手を引きながら私達も歩き出した。


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