4話



「スレイ、どうかしたのか?」
「いや、なんでもない。」

急に立ち止まったスレイの顔をミクリオが訝しげに覗き込む。だがスレイは首を横に振ると再び歩き出した。

(……まさかな。)

脳裏を過った考えを振り払うように頭を振った。

俺とミクリオは遺跡を調べている途中で天気が急変し、雷雲へと変化したため、イズチへ戻ろうとしていた。だけど、突然道が崩れてミクリオと共にこの遺跡の中へと落ちてしまった。
幸いにも怪我はなかったが、遺跡の出口を探す中、一人の倒れてる人間の女の子を見つけた。
ミクリオは関わるなって言っていたけれど、放っておけない俺はその人間のところまで向かっていた。そんな俺に渋々付き合う形でミクリオも同行していた。

しかし、行く手を塞ぐように大きな蜘蛛の憑魔が現れ、やむを得ず戦闘になった。
何とか追い払う事は出来たけど、倒すことは出来なかった。憑魔とは穢れが生み出す恐ろしい魔物で、やつを倒すには"浄化の力"が必要となる。
けれどその力がない俺達は倒す術が無く、出会ったら逃げるか、追い払うしかないのだ。
そして、そんな恐ろしい憑魔が彷徨いていると分かったため、先を急がねばと自然と歩く足が速くなる。

「早く彼女の元に行かないとな。」
「人助けはいいけど、自分の安全も考えて行動してくれよ」

ミクリオの言葉に苦笑しながら歩いていると、突然ドォンッ!という音が遺跡全体に響き渡る。

「なんだ!?」
「スレイ!上だ!」

ミクリオの声に反応して見上げると、ぱらりと砂が落る。そして、はるか遠くに見える天井の一部が崩れ落ちてきたのだ。そしてその落ちてくる瓦礫の隙間から、よく知った幼馴染の姿が見えた。

「レィリア!!?」
「あのままじゃまずい!地面にたたきつけられるぞ!」

このままだと彼女は確実に助からないだろう。そう思った瞬間、考えるよりも先に身体が動いていた。

「危ない!!!」

落下する彼女を咄嵯に受け止めようと走り出す。
しかし落ちてくるのは彼女だけではない。瓦礫やその破片が落ちてくるのを見たミクリオは叫ぶ。

「危険だ!スレイ!!!」

落ちてくる瓦礫をどうするかなんて、考えがある訳ではなかった。危険な事だと理解していてもそれでも立ち止まる事なんて、レィリアを見捨てることなんて俺にはできない。
伸ばした腕に落ちてきた瓦礫の破片が当たろうとも、必死で俺はレィリアに手を伸ばす。

「レィリア!!」
「スレイ!?」

その瞬間、落ちてくる瓦礫も、レィリアを抱き留めるのも、後ろにいるミクリオの声も全て、まるで時間がゆっくり流れているような不思議な感覚に襲われる。
しかし、どうしようもない状況に上から落ちてくる瓦礫から彼女を庇うように強く抱きしめ、目を閉じた。

「双流放て!ツインフロウ!」

突如聞こえた声と同時に水の流れる音を聞き、目を開けると、そこには螺旋を描く二つの水流が落ちてくる瓦礫に当たり、軌道を変える事で二人に当たる事は無かった。

「二人とも大丈夫かい?」
「ありがとうミクリオ。今回ばかりはもう駄目かと思ったよ。」
「こっちは心臓が止まりかけたんだぞっ!」

あははと乾いたように笑う俺を見てミクリオは腕を組み呆れた表情をしていた。
不意にトントンと背中を叩かれ、ハッとする。今だ強く抱き締められていた彼女はスレイの腕が緩まると、その肺に思いっきり空気を入れる。

「ごめん、苦しかった?」
「大丈夫だよ。それより抱き留めてくれてありがとうスレイ。」
「どういたしまして。」
「それより怪我は?私と一緒に瓦礫も落ちてたからかなり危険だったけど、どこか怪我してない!?」
「大したことは無いよ。」

彼女に微笑むと安心したのか笑顔が返ってきた。
すると今度は俺の後ろに立っていたミクリオが不機嫌そうな声で話しかけてきた。

「……君たちいつまでくっついているつもりだい?」
「え?…ああ!ごめん!!」

言われてから気が付いたが、俺はまだ彼女のことを抱きしめるように座り込んだままだった。
慌てて手を離し立ち上がると、彼女も立ち上がり、服についた埃を払う。
顔の熱が抜けない俺は、自分も服の埃を払う素振りを見せながら彼女に背を向ける。

「ミクリオも助けてくれてありがとう。ミクリオの天響術がなかったら私もスレイも無事じゃ済まなかったよ。」
「いつも二人の無茶に振り回されてるからね。とはいえ、毎度こんなことに巻き込まれるとこっちの身が持たないんだけどな。」
「面目ない……。」

ミクリオはため息をつくと、まだ少し拗ねている様子で話を続けた。

「まったく、君達はもう少し慎重に行動するべきだ。軽率すぎるぞ。」
「はい、ごめんなさい。」
「だいたい、なんで上から君が落ちて来るんだ。」
「それは話すと少し長いんだけど……。」

そう言ってレィリアから事の経緯を聞いていたミクリオだったが、次第に眉間にシワを寄せていく。

「つまり、僕たちを探して移籍の中に入ったはいいけれど憑魔に襲われて、祭壇にあったそのハンマーで追い払うつもりが誤って床を殴って落ちて来たと……そういうこと?」
「うん、簡単に言うとその通りです。」

ミクリオはまた大きなため息をつくと頭を抱えてしまう。そんなミクリオとは対照的にスレイは楽しそうにハンマーを見つめていた。

「ねえ、レィリア!俺も少し触ってみてもいいかな?」
「うん、いいよ。」

差し出されたハンマーに手を掛けるが持ち上がらない。もう一度力を入れて持ち上げようとするがビクともしない。その尋常じゃない重さにスレイの額にも汗が滲み始める。

「ダメだ、全然持ち上がらない。」
「やっぱりそっか……。」

そう言って笑うレィリアは少し寂しげに見えた。

「それよりなにか忘れてないか?」

ミクリオのその一言にスレイは思い出したように「あっ!」と声を上げる。

「そうだ!そうしてる場合じゃなかった!」
「どうかしたの?」

心配げに見上げるレィリアにスレイは「ついてきて」と言って歩き出す。その後を追う形でミクリオとレィリアも遺跡の奥へと進んだ。



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