[PM22:25 救出の後]


白い衣装についた汚れを手で払い、老人は安堵の息を漏らす。
一撃で穿てたのは幸いだ。
全ての虚の意識が少女に向いていたからだろう。
 
師匠 せんせい!」

老人を呼び、駆け寄ってきたのは小さな子供。
こちらも眼鏡をかけ、白い衣装を着ている。

「これ。
隠れていろと言ったじゃろう」
「消滅したら安全です。それぐらいなら僕でも分かります。
師匠、あの女の人がさっきの……?」
「ああ。
今は霊力を感じぬが、虚が狙っておったのは彼女じゃろう。
どれ、わしの家に運んでやろうかのぅ。
先ほどのようなことが起これば、虚はまた彼女を狙う」

老人は春瀬に歩み寄る。
その後を少年が続いた。

「可哀想に……。
三体もの虚に追われて怖かったじゃろうな……」

気を失った春瀬の頬は涙で濡れている。
それを痛ましそうに見る老人は知らない。
彼女が安心して泣いたことを。
少年は春瀬を抱き起こそうとした。

「無理するな雨竜。
わしが運ぶ」
「師匠が運んで途中で腰を痛めたらどうするんですか。
僕が運びますから」
「うぅむ……。
……それじゃあ雨竜、運べるところまで頼む」
「はい、任せてください!」

とは言ったものの。

「くっ!
くぅ……う、うう……うぐぐぐぅ!!」

抱き起こそうとしたが、身長差がありすぎる。
高校生と小学生だ。

「…………」 老人は辛そうに目を伏せる。
「…………」 少年は悔しそうに唇を噛む。

風の音が静かに聞こえた。

「雨竜……」

老人の絞り出す声に、少年はうつむいた。

「……はい」
「二人で運ぼうかの……」
「はい……」

満月が輝いている。
雲を美しい金色に染めていた。

 






 
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