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 俺は今の状況にもの凄く辟易していた。
 なにこれ。
 なにこれ。
 大事なことなので二回言うくらいわけわからん。

 日頃は冷静沈着とか厨二病とか言われたい放題の頭が、許容量を超えてパニック状態になる。だって、こんな前例がないことに落ち着いていられる方が、変だ。


 俺は今抱きかかえられている。落とさないようにかしっかりと。俺の意識は25歳の大学院生のつもりだ。故に、可笑しい。逆に、どこが間違っていないか当てる方が簡単そうだ。
 嬉しそうな雰囲気を惜しげもなく醸し出した、ゆるっゆるの顔の男が俺を腕に抱いている。近くでは赤毛の女性が笑っている。Arthur(アーサー)、Arthur(アーサー)と俺を抱いてゆらゆら動いている男に言いながら。
 英語はイギリスに留学経験があるから日常会話は理解できる。難点は、ホームステイ先の家族がモダン英語ではなく正統派クイーンズイングリッシュを使っていたから、初めて英語に長期的に密接に触れたことで自分も自然とクイーンズイングリッシュを使うようになってしまったことだろう。因みに自慢は高2で英検一級を取ったことだ。俺、自分で自分が信じられなかった。


 ……そうではなくて。今の状況についてだ。ゆっくりと、思いだしてみよう。何故こうなったか。


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