「朝からやっているお店があるんですね!」



無言のまま手を引かれ着いていくと


冨岡さんが立ち止まった先に小さな一軒の甘味処が丁度表にのぼりを出すところだった



「おや、いらっしゃいませ。食べて行きますか?包んで行きますか?」


「どうしますか?冨岡さん」


「食べて行こう」



店主と思しきおじいさんに案内され


店内の小さな二人掛けの椅子に冨岡さんと腰掛ける



「お茶をどうぞ。熱いので気をつけてね」


「ありがとうございます!」



椅子の前にある小さな台にお茶が二つ置かれる


壁にあるお品書きの中に自分の好物を見つけてしまった



「私はわらび餅を頂こうと思うんですけど、冨岡さんは決まりましたか?」


「、、、同じ物を」


「はい、少々お待ち下さいね」



側で聞いていたおじいさんが仕切りの向こうへ入って行く



「冨岡さんもわらび餅が好きなんですか?」


「、、、マリンはわらび餅が好きなのか?」


「はい、亡くなった母がよく作ってくれたので。ちなみに師匠はおはぎに目がないんですよ」


「そうか、、、では帰りに包んで貰おう」


「おはぎもわらび餅もあって良いお店ですね。素敵なお店を教えて下さってありがとうございます」


「、、、あぁ」



のんびりとわらび餅を食べて程よい温度になったお茶にホッとする



「冨岡さん、きな粉が沢山ついてますよ」


「っ!?」



口の周りに沢山きな粉がついていたので私のハンカチで拭いてあげると


驚いた顔をして固まってしまった冨岡さん


おじいさんにおはぎを包んで貰い


お金を支払おうとしたら固まっていたはずの冨岡さんに止められてしまった



「師匠のおはぎも買って下さってありがとうございました」


「気にするな」


「あのお店のわらび餅はとても美味しかったので、きっとおはぎも絶品でしょうね」


「、、、、」



師匠の御屋敷が近づくにつれてまた口数が減る冨岡さん


今日師匠は陽が昇る前からカブトムシを探しに行く日なのだが


その事を知らないからいつもみたいに見つかって怒られないか警戒してるのかな


そう思うとちょっと可愛く思えて思わず頬が緩む



「?」


「まだ師匠は戻って来ないので怒られませんよ」


「いや、マリンと分かれるのが、、、」



急に立ち止まり難しそうな顔をしてそう言うものだから


思わず胸がキュンとする



「、、、また、一緒にあのお店に行ってくださいね」



思わずそう言ってしまったのは


きっと冨岡さんが寂しそうに見えたから


少し足りない彼の言葉に


勘違いしてしまわないようそう思いたいのに



「あぁ」



そう嬉しそうに笑う冨岡さんを見て


顔に熱が集まるのを止められなかった










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