街で見かけた可愛いあの子

  今年は後3人くらい狩ればいいだろうか。とある建物内を左手にクマのような男の襟首を持ち引きずって歩く。男は白目を向き泡を吹いて気絶していた。その顔面に貼り付けられた手配書には500万ベリーの文字。どこかの海賊団の船長らしく、強奪強盗強姦なんでもありの海賊団で被害は数しれないらしい。


「お久しぶりです」

「お久しぶりです!いつもありがとうございます」

「いえいえこちらこそ」


 海兵たちの敬礼に愛想良くぺこりと会釈を返す。ここに来るのは何度目になるだろうか。1年に2、3回来たら割と来ている方でしょう。と手持ちの海賊を海軍に引渡しながら考えていた。

 私は賞金首を狩って暮らしている。四皇とか圧倒的に無理みが強いのは手を出さないが懸賞金を掛けられている海賊の弱そうな奴らだけ、1000万ベリーいかないくらいの海賊を狩って海軍に引き渡している。

 海賊は何気に団体行動しているが、単体になったところを狙えば何とかなる気がしているし、実際何とかなっている。

 気が向いた時に海賊を狩って、ある程度のお金を貰って生活出来ればあとはほぼ働かなくてもいいのだ。面倒臭がりで自堕落な生活を送っている私には有り難い職業だった。

 しかし、そんな命の危険もある事をやっているせいで全身傷跡だらけだ。もし母や父が今の私の姿を見たら「お嫁に行けないわよ」と言って大号泣するだろう。嫁云々は知ったこっちゃない。結婚が女の幸せじゃないんですよと声を大にして言いたい。それに結婚するなら私を癒してくれる人がいい。

 しっかりと200万ベリーと新しく更新された手配書を貰い海軍の建物を出て、貰ったお金でご飯を買っていこうと港町の方へ歩くと、つなぎを着たシロクマがウロウロと歩いており、とても目立っていた。

 なぜシロクマがこんなところに。白い毛が風に吹かれてふわふわと揺れている。非常に魅力的だ。そういえば立って歩くシロクマの情報をなんか聞いたことあるな、と思い海軍から先程貰った手配書をペラペラとめくる。


「貴方は......」

「な、なに!?」


 私は思わずシロクマに指を指し、シロクマは突然指をされた事に驚いて飛び上がっている。周りの人もなんだなんだとこちらを見ている。少しすると私たちとは距離を置いて野次馬が集まってきた。


「やっぱりベポさんですね」


 手に持っている手配書をシロクマに見せつける。その手配書には【Dead or Alive 『BEPO』500ベリー】という文字列とオレンジの服を着たシロクマの写真が載っている。

 周りの野次馬たちは手配書とシロクマを見比べて「アイツじゃないのか」「似てる」「そうか?」と様々な反応をしている。


「なんか見た事あると思いました」

「わ、わーー!」

「あっ」


 シロクマ基ベポさんは私に背を向けると走り去っていった。別に追いかけるつもりは無い。ベポさんがこの場に留まるつもりでいたなら、ついでに触らせて頂こうかとは思ったけども。

 海軍に引き渡すにしても懸賞金が500ベリーじゃ子供のお小遣いだ。ご飯1食分の金額。追いかけるのは時間と体力の無駄だろう。
 しかしあのもふもふは気になる。また明日も会えるといいのだが。とりあえず明日も街には出てみるが、警戒されてしまったので、流石に、きっと、会えないだろう。

 





 そう思った時期もあった。
 普通にいた。街の中を普通に歩いている。危機管理能力というものと警戒心は無いのだろうか。頭もふわふわだ。

 気配を殺してその後ろ姿を距離を保ちながら追いかける。やはりあのもふもふは近くで見たい、もふらせて欲しいと思い、歩調を早めるとベポさんの隣にそっと並ぶ。


「おはようございます」

「おはよー!......ってこの臭いは!?」

「昨日ぶりですね」

「昨日の人!?キャプテンーーー!!」


 ベポさんはハートの海賊団の船員だ。つまりキャプテンはあの死の外科ということになる。ただの興味本位で話しかけたのに殺されてはたまったものじゃない。生活するために賞金首狩りしてるのに、その賞金首に狩られたら元も子もない、ミイラ取りがミイラになってしまう。

 騒がれては困るので痛くはしませんと言い、ベポさんの腕を掴み路地裏へ投げ飛ばすとガシャンと音を立ててベポさんは木箱の山に突っ込んだ。しかし、すぐさま立ち上がり、ワチョー!と叫びながら蹴りをしかけてくる。相手は体が大きく重量があるため前腕で力を横に流し、その足を掴んで壁に叩きつけた。

 あいたたたと言いながら瓦礫の中に埋まっているベポさんに近付き、瓦礫から引っ張り出す。少々乱暴になってしまい、ベポさんは痛がっているそぶりを見せているが、もふもふと素の力の差のおかげでそこまで痛くはなさそうだ。

 私は倒れたままのベポさんに馬乗りになり、つなぎの1番上のボタンに手をかけた。


「ベポさん、痛いことはしません。ただ触らせて頂きたいだけなので、服を脱いでもらえませんか」

「嫌だよ!?キャプテンー!!」

「そちらの船長さんを呼ばないでいただけると嬉しいです。......大人しくしていれば、海軍にも引渡したりしません」

「ほ、本当?」


 顔を上げて私の方を見るベポさん。こんなにチョロ......単純で海賊なんかやっていけるのだろうか。


「本当です。それに生まれたままの姿、知らない人に見られたくないでしょう?」

「キャプテンーーーー!!」

「あ、ちょっと。あと静かにしてください。そんなに大声出すと海兵が来てしまうじゃないですか」

「すいません......」


 しょぼんと項垂れるベポさんの真っ白な頭をよしよしと撫でて落ち着かせながら、さぁ脱ぎましょうねと再度つなぎのボタンに手をかけると、耳元でカチャリと音がした。


「お前、ベポに何してやがる」

「キャプテン!!」


 振り向くとそこにいたのはハートの海賊団船長、死の外科医トラファルガー・ローだ。路地裏の入口に立っているためしっかりと顔は見えないが、あの特徴的な帽子で分かった。

 身長が高く威圧感があるが、欲望のためにも私はここで辞める訳にはいかない。つなぎをはだけさせたベポさんを隠すように私は立ち上がる。


「やるか」


 悪魔の実の能力者なのか、大きな刀を直ぐに抜けるようにし手の形を変える死の外科医。手配書の写真より顔がいいですね。そんな呑気な考えはおくびにも出さず真剣な顔で私はこう答えた。


「全力で戦うなら死にますよ」

「ほぅ......」

「私が」

「......」


 無言が続きましたが、しばらくしてから舌打ちと共に刀から手を離した死の外科医。やりずれェという声はしっかり聞こえている。

 一体何が目的だと聞かれたが、素直にベポさんを触ることですと答えればクソデカため息が返ってきた。失礼な。


「こんな奴に構ってる暇はねェ。さっさと船に戻るぞ」

「アイアイ!」


 いつの間にか身だしなみを整えたベポさんは立ち上がり、死の外科医の元へ歩いていこうとするベポさんに私は声をかけた。


「待ってください!」


 立ち止まってくれる1人と1匹。ちゃんと止まってくれるんだ。意外と優しいと思ったが、その隙にとベポさんの背中に抱きつき深呼吸をする。

 スゥゥゥ......ハァァァ......


「なっ!?」

「アイヤー!?」

「これで暫く生きれます。また来てくださいね」

「誰が来るか!!」


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