新米海兵の受難

 ここはマリンフォードにある海軍本部。辺りには白地の制服を着た海兵たちが忙しなく動いている。そんな中、新米三等兵のカナエは1人中庭のベンチに座って資料を読んでいた。


 休憩中とはいえこんな慌ただしい中休んでいても大丈夫なのか。上司からは「新米はまず賞金首の顔と名前を覚えろ」とは言われたものの少し罪悪感がある。

 今日はどうやら私が海軍に入ってから初めての王下七武海が集まっての会議があるらしい。つまり海賊の船長たちがこの海軍本部に集まってくるのだ。


 厳つい顔をし髭を生やした体格の大きい男を想像しブルブルと身を震わせる。身体を鍛え始めたばかりのカナエが到底叶う相手でもない海賊が、この本部内にいるということは何かあった時駆り出されるかもしれない。早く顔と名前を覚えてできるだけ接触しないようにと、再度上司から貰った度手配書に視線を落とす。

 貰った資料の中には七武海の手配書もあるとのことだ。先に確認しようとペラペラと捲っていく。



『ボア・ハンコック』

 黒髪ロングの美人だ。写真からでもわかるこのお肌のつるつる感と髪のサラサラ感。お鼻が高い。羨ましい。私は最近になってお肌の手入れというものを学んだけど、この人は持って生まれたものプラスきっとすごい努力したんだろうなぁ。懸賞金がとんでもない額なのは置いといて。

 ボア・ハンコックの写真に顔を近づけてまじまじと見る。通りすがりの海兵に変な目で見られた。



『ジンベエ』

 魚人族......?青い肌に大きな牙。体は大きくゴツそうというのが第一印象。名前からしてジンベエザメの魚人なのかな。眉毛がくるくるふわふわだ。魚人というよりかワノ国の狛犬に似てる。懸賞金は............におくごせんまん。ひぇ。

 手配書を見てコロコロと表情を変えているカナエの傍を、ベテラン海兵は暖かい目で通り過ぎた。新米海兵はきっとカナエと同じような反応をしているのだろう。

 カナエはペラリと手配書をめくる。



『バーソロミュー・くま』

 におくきゅうせんろっぴゃくまんべりー。わたしはなにもみていない。にきゅにきゅの実の能力者らしいが悪魔の実の名前が何か可愛い。くま耳!!帽子に耳が生えてる可愛い!くま耳もふもふしてるのかな。っていうかとても見覚えがあるのだけれど。

 カナエは手配書から顔を上げて視線を右へとそらす。黒地に可愛らしい白い肉球の模様が入っている服装が目に入る。決して近い距離にいる訳では無いが、遠近感が分からなくなるほど巨大な男性(?)が中庭の木の傍で座っている。

 私の目がおかしくなければ座って木と同じサイズだし、この手配書と顔が一緒......えっ。

 何度も手配書と彼を見比べるがやはり一緒だ。この巨体にくま耳......???

 私はなにも見ていない。よし、次の手配書確認しよう。

 

『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』

 重力に逆らう金髪に厳ついサングラス。上からもけもけのコート?上着を羽織っている。3億4000万ベリーという数字は見ないようにしよう。イトイトの実の能力者で、手配書とは別の資料に要注意人物と赤字で書かれている。もう見た目から怖いもん。近づきたくないよね。

 ところで左の方からピンクのモサモサした上着を羽織った大きい男性が歩いているのが視界の端に写っているけども、もしやあれが。

 彼は機嫌がいいのか口が裂けてしまいそうなくらいの笑みを浮かべて歩いている。油断したらばくりと頭から丸呑みされそうなほど大きい。

 私は壁、私は空気、私は雑草、と自分自身にいいきかせてカナエはできるだけ気配を消そうとする。相手は圧倒的強者だ。カナエみたいな弱者には目もくれないだろうが視界に入らないに越したことないだろう。彼が歩いている道は、カナエが今座っているベンチと20mほど離れているが、カナエは本能的にここから離れたいのに漠然とした緊張感に襲われ動けない。ただその場で息を殺す。

 特に何も気にしていませんよといった風にカナエは震える手で手配書をめくる。



『サー・クロコダイル』

 目に優しい8100万という数字。もう完全に感覚がおかしくなっている自覚はある。写真に写るクロコダイルは顔の真ん中を横切るように入った傷跡が一際目立ち、黒髪を後ろに流して太い葉巻をふかしている。顔面が怖い。なぜ海賊はみんなこんなに顔が怖いのか。

 このクロコダイルも別紙に要注意人物と書かれている。スナスナの実の能力者で人を枯らすらしい。え、怖すぎない?ただの一般海兵に対処出来るわけなくない?掴まれたら即死じゃん。


 なんで右から写真と同じ顔の人が来てるの。


 いつの間にかにきゅにきゅの人はいなくなっており、ピンクの大きい人と反対側から砂の人が歩いてきていた。このまま2人が歩いていけば、私の座っているベンチの前の道で対峙することになる。非常にまずい。私みたいな小物はきっと目に入らないだろうけど、入らない方がもっとやばいのでは。


「よォ、ワニ野郎」

「......チッ」

「相変わらずツレねェな」


 別に私が2人の前に立っているわけでもなく、同じ空間にいるだけで汚い話ちびりそうだ。大将助けて。なんでこんなところにドンキホーテ・ドフラミンゴとサー・クロコダイルがいるの。なんでくまの人いなくなったの。

 空気と同化しながら2人の行く末を見ていたが、なんだか一触即発な雰囲気でピリピリしている。わたしもうだめかもしれない。今までありがとう、お父さんお母さん。


 2人の威圧感に新米海兵が耐えられるはずもなくカナエの意識はブラックアウトした。

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