我ら海軍本部手配書写真係

「先輩!あれ!」

「カナエ!静かにしねェとばれるだろ!」


 物陰に隠れてこそこそと話す海兵が2人。1人はカメラを構えており、もう1人は複数の手配書と少し離れた場所にいる海賊を見比べている。

 そう、彼らは手配書の写真を撮る専門の海兵である。懸賞金がかかっている海賊を年中探して三千里。もはや本部にいる期間の方が短いのではないだろうか。

 新米海兵のカナエは大物海賊を初めて見た興奮を落ち着かせようと、首にかかっているシミ一つない青のスカーフを弄っている。それを咎めるかのようにカナエの先輩海兵はコツンと拳骨を落とした。


「ぴぇ」

「四皇がいるからって焦るな!」

「だ、だって初めて見ましたもん!」

「いいから黙ってカメラ構えろ!」


 先輩海兵に殴られる前にカナエはカメラを構える。ファインダーから見える『赤髪』は到底悪そうには見えなかった。仲間に笑顔を向けているその姿はとても10億4000万ベリーも懸賞金が掛けられているようには見えない。


「先輩!どのタイミングで押したらいいですか!」

「とりあえず顔が写りゃ大丈夫だ」

「了解です!」


 青果店の横にある木箱の裏や道の茂みに隠れながらいいタイミングを見計らうこと数時間。なかなか隙を見せてくれず夕方になってしまった。

 赤髪を追いかけていたら街中から海辺へと来てしまったようで、橙に染まる空と巣へ帰る鳥たちの声が平和の象徴だとさえ感じてしまう程カナエと先輩海兵は疲れ切っていた。

 この海辺へ来る途中で仲間と別れた赤髪は今1人だ。開けた場所で遮るものもなく光の入りも悪くない。今がチャンスだと先輩海兵の声でカナエはシャッターをきる。カシャッという音と同時に動く被写体。


 
 麦わら帽子に手をかけこちらを見て軽く笑う四皇の1人、赤髪のシャンクス。



 完全にバレている。


 先輩海兵と慌てて来た道を戻る。追ってきてはいないか後ろを振り返りながら。私達みたいな海軍でも下っ端の下っ端のような海兵に攻撃してくることは無いはずだ、と思いながら坂道を駆け下り路地裏へ入りカナエ達は身を隠す。


 しばらく息を殺していたが人の気配はなく、先輩海兵とほっと安堵のため息をつくと写真を確認した。


「先輩......これ......」

「おい、カナエ。何も言うな......」

「完全にこっち見てますよね......」

「言うなって言っただろ......」


 頭痛が痛いかのように頭を抑える先輩海兵。現像された写真に写る赤髪はまるで示し合わせたかのようにまっすぐこちらを見ていた。手配書用の写真としては写りはかなりいいのだろうが、如何せん撮っていたのがバレている。


「早くここから離れましょ」

「さっさとずらかるか」


 海軍本部へ戻るため路地の出口へと振り向こうとした時。


「お、かっこよく撮ってくれたな」


後ろから聞こえた声に背筋が凍った。

 ギギギと音を立てて振り返ると白いシャツに黒い外套。シャツの前ボタンは開いており、そこからは逞しい筋肉が見える。少し視線を上にあげると先程カナエたちが盗撮した人物、赤髪のシャンクスが立っていた。
 四皇が目の前にいるという状況を上手く呑み込めなかったカナエはシャンクスの顔を見上げたままフリーズする。


「ぴぇ」

「カナエー!何立ちつくしてんだ!!おい!逃げるぞ!!なんか反応しろ!!」

「ぴぇ」

「てめぇは鳥かこのやろう!!」


 先輩海兵はカナエの頭にげんこつを落とし、肩を両手でつかんでがくがくと揺さぶる。
 直後だっはっはっと大きな声がカナエの目の前の人から聞こえてきた。どうやら赤髪は笑っているらしいと認識したカナエはハッと意識を取り戻す。


「せ、先輩!こういう時のマニュアルとかないんですか!?」

「ちょ、やめろ、離せ!んなもんあるわけねぇだろ!」

「お頭ァ、こんなとこで何してんだ」


 パニックになったカナエは先輩海兵の襟をつかみがくがくと揺さぶる。それを見て更に笑い袋が弾け飛んでいるシャンクスの反対側から、これまた大きい男が3人に近づいてくる。

 赤髪海賊団の副船長、ベン・ベックマンだった。カナエは思わず先輩海兵から手を離し、先輩海兵はむせこんだ後顔を上げて青ざめる。


「こいつら俺の写真撮って騒いでたんだ!おもしれェだろ!」


 面白がってるのは貴方だけです。先輩海兵と心の声が一致したカナエ。先輩海兵と互いに抱きつきブルブルと震えている。この際男女なんて関係ない。命の危機なのだ。
 船長の突拍子もない言動には慣れているのかベン・ベックマンはカナエ達海兵の方を見る。カナエ達は青ざめた顔をして首を横に振りまくった。


「しゃ、しゃ、写真はと、撮りま、したが、し、仕事なんです」

「ぴぇ」


 赤髪の副船長は震える2人を見た後、目をきらきらさせた船長を見て大きくため息を吐いた。どうも攻撃してくる気は無いようだ。

 こうげきはやめてください、しんでしまいます。

 こちとらただ手配書の写真を撮っているだけの新米海兵なんです。張り手されるだけで物理的に首が飛んでしまいます。と心の中で騒ぐカナエ。もちろん声には出していない。


「もう船の補修が終わるぞ」

「そんなに時間経っちまってたのか」


 赤髪のシャンクスは抱きしめあっている2人の横を通り過ぎ、ベン・ベックマンと共に去っていった。カナエはその場に崩れ落ちるとぽつりと呟くように言った。


「たいしょくします」

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