煙と沈黙

はぁ.......

 大きなため息とともに吐き出される白い煙。海軍本部のとある執務室内ではスモーカー大佐と私が向かい合って座っている。特になにか話す訳でもなく、部屋には煙と沈黙が漂っていた。

 非常に気まずい。

 私、カナエはたしぎさんと仕事終わりにお出かけする予定で正門前で待ち合わせていた。しかし、時間になってもなかなか来ず、この執務室へと来たわけだ。

 たしぎさんとは同期で、今では上司と部下だが休日にご飯行ったりショッピングするほどに仲がいいと思ってる。おっちょこちょいなところもあるけど、それも彼女の魅力だろう。とはいえ海軍本部内を迷うことは無いはず。

 執務室に訪ねたのはいいものの、中にはスモーカー大佐しかおらず、「たしぎさん見ませんでしたか?」と聞いてみても「知らねェ」とだけ返ってきた。
 お礼を言ってそそくさと出ようとすると、スモーカー大佐から「たしぎは帰る前にはここに来るはずだ。そこで座って待ってろ」と言われてしまえば断ることも出来ない。

 こうしてスモーカー大佐と二人きりで過ごしている。

 正直言ってここから出たい。この沈黙に耐えられない。

 スモーカー大佐はただ怖いだけではなく、口は悪いが実は優しい。危なかったら助けてくれるし、書類や報告書で分からないところがあればさりげなく助言してくれる。柄が悪いだけで中身はとてもいい人なのだ。

 しかし、直接対面で話したことはあまり無いため、早くこの場から出たいのだ。あまり話したことがない上司と執務室で二人きり。気まずいことこの上ない。

 そんなことは露知らず現在大佐はいつもの葉巻を2本咥えながら新聞やら手配書等を読んでいる。別段こちらのことを気にする訳でもなく、ただただ資料に目を通している。

 ソファの横には大佐愛用の七尺十手が立てかけられており、あまり近くで見ることも無いためまじまじと見てしまう。七尺、つまり約210cm程の長さだ。先端には海楼石がついており悪魔の実の能力者も押え込めるらしい。

 私の武器はリボルバーとライフルという中距離戦が得意な銃だ。海兵の主な武器のひとつと言ってもいいだろう。その為、たしぎさんやスモーカー大佐のような武器を見る機会があまりないのだ。

 じっくりと七尺十手を見たあと、視線を大佐に戻すと目が合った。訝しげな顔で資料から目を離しこちらを見るスモーカー大佐はそりゃあもう怖かった。これはほぼデフォルトだが眉間にシワがよっており、三白眼の目は威圧感がある。オマケに葉巻を2本も咥えていて、完全に堅気でない人だ。

 早く帰ってきて、たしぎさん。


「カナエ」

「は、はい!」


 わぁ何言われるんだろう。そもそも名前認知されてたの。あまりというかほぼ全く話したことがないから顔は覚えられてても名前は知られてないと思ってた。

 突然話しかけられたことにより少し緊張して私の背筋をぴんと伸ばし立ち上がる中、スモーカー大佐はまた資料に視線を落としそのまま話し続ける。


「今度、刀か剣使ってみろ」

「.......え?」

「銃の腕は今は十分だ、近接戦はもう少しできるようにしとけ」

「は、はい!」


 アラバスタの件で身のこなし方は良かったが、銃の反動に耐えきれず弾の装着や引き金を引いた後にラグがあり、撃った後に攻められれば簡単にやられる。銃弾のブレは少ないため、発砲後すぐに動けるぐらいの筋力と瞬発力をつけろ、との事。

 大佐、めっちゃ部下のこと見てくれてる。優しい。好き。

 ちょろい自覚のある私はすぐに大佐への好感度が爆上がりする。思わずにへらと笑ってしまい、スモーカー大佐に怪訝な顔を再びされる。大佐は新しい葉巻を胸元から2本取り出すと先端を少し切り落としてマッチで火をつける。


「そういやァ今日たしぎと出かけるんだろ」

「そうですが......」

「経費で出してやる。アイツに刀選んでもらえ」

「えっ」


 驚いてスモーカー大佐の顔を見るとしらっとした顔で葉巻を2本ぷかぷかと煙を吹かし、ソファに背をあずけている。任務の時ほとんど一緒にいるたしぎさんへの信頼度が高いところとたしぎさんの武器を見る目を信用しているところ好き。この人が上司で良かった。

 絶対赤犬大将のところとかだと厳しすぎてやっていけない自信ある。かと言って青キジ大将のとこだと大将がすぐどこかに行って探し回ってるイメージしかないし、黄猿大将はかなり大きな任務ばかり行ってるイメージで大変そう。

 スモーカー大佐、万歳。

 心の中でスモーカー大佐に手を合わせているとコンコンと執務室にノック音が響いた。失礼します、と聞きなれた声が聞こえる。スモーカー大佐が返事をすると入ってきたのは書類を抱えたたしぎさんだった。


「お疲れ様です。仕事が終わりましたので.......ってカナエちゃん!?」

「あ、お疲れ様です」

「お待たせしてしまってすみません!待ち合わせって正門前でしたよね.......?」

「お前が遅ェから来たんだとよ」

「た、大佐!」


 わざわざ言わなくてもいいのに、とは思ったものの嘘では無いので黙っておく。たしぎさんがわたわたとしているとスモーカー大佐は最初と同じように大きなため息とともに煙を吐き出した。そして、咥えていた葉巻を灰皿に押付けて火を消すと、しっしっと犬を追い払うみたいに手を振った。


「さっさとそれ置いて行ってこい」








「たしぎさん!今日は刀見に行きましょう!」

「はい是非!でも珍しいですね。カナエさんから刀を見にいこうだなんて」

「いつも銃ばかりでしたからね。ふふふ」

「......?」

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