birds of prey

 目と目があった。この状況で恋なんか始まるわけが無い。上空200mから羽付き帽子の下の鋭い眼光と見つめあっていた。つい最近海軍本部で七武海を含めた会議を行ったというのが新聞にあり、その写真にこの男が載っていた気がした。

 幼い頃トリトリの実という言葉にはしがたい程不味い実を食べ、鷹に変身することができるようになった私は空を飛んで島々を渡り歩いていた。ちなみに両親ともに海兵本部に所属しているが、私自身保護されるような年齢でもないため、能力を使って荷物を運んだり郵便屋の真似事をしてお金を稼いでいた。

 仕事が終わりのんびりと空を駆けていたら、ジメジメとした暗い島があり休憩がてら1度降りようと思いたった結果がこれだ。

 大きな十字架を模した剣を担いでいる鷹の目、ジュラキュール・ミホーク。王下七武海の一人で剣豪だそう。そんな有名人がなぜこんなところに。

 どこか降りれる場所を探そうと辺りを見回す。どうやらここは滅んだ国の跡地のようで、人の気配は一切ない。私は自慢の羽をはばかせて鷹の目から離れた海岸に降りた。


「シッケアール王国......?少し前に滅んだ国か」


 波に削られた岩の隙間に立て看板が挟まっている。木製のため海水でボロボロになっているが何とか読めたのは『シッケアール王国へようこそ』という文字が書かれていた。

 かなり前にはなるが、内乱でクライガナ島にある国が滅んだと新聞で読んだ記憶がある。確かクライガナ島は普段は黒い雲に覆われて湿気でジメジメしているため、作物が育ちにくい。近隣の島との交易で食料を確保していたと本で読んだ。きのこ類は育ちやすく、よく食べられていたそう。

 崩れている塀の向こうに巨大な墓標が見えて傍によると、つい最近建てられた物のようで荒れた土地では一際浮いていた。


「ふむ、もしかして鷹の目が建てたのか」

「そうだ」


 聞こえてきた声に背後を振り返ると、先程と同じ猛禽類のような目が合った。音もなく立っていた鷹の目に後ずさる。


「そう構えずとも良い。初めての来訪者だ。もてなそう」

「......こちらに危害を加えないと」

「あぁ。約束しよう」


 背を向けて歩き出した鷹の目に、約束通りこちらに危害を与えようという気は無さそうだと判断して距離を空けてついて行く。この島の中心部にある古城を住処としているようだ。古城の周りは木で覆われており、兜を被ったサルのようなものがこちらを伺っている。


「ヒューマンドリルか。初めて見た」

「知っているのか」

「一応。本で読んだ知識しかないが」


 ヒューマンドリルは知能が高い。故に人間の真似ができる。農作や建築、遊戯、戦争等見たものを真似して取り入れるため住んでいる環境によって性格や個性が大きく変わる。


「ここのヒューマンドリルは内乱を見ている。おれから離れすぎると殺されるぞ」

「承知した。忠告、感謝する」


 鷹の目を強者だと認識しているのかヒューマンドリルは襲っては来ない。武器は構えているが木の影からこちらを伺うばかりで動く気配は無い。そこらの海賊より賢いのではないだろうか。

 以前ウォーターセブンで海軍中将に喧嘩を売った海賊がいたが、呆気なくやられて捕まっていた。相手の力量を見極めもせず戦うのは勇敢ではなく無謀だ。本能で動いている生き物の方が随分と生きるのが上手いだろう。

 ここでは私は弱者だ。このヒューマンドリル達には逃げに徹するしかないだろう。彼らが持っている小銃はかなり年季が入っている。シッケアール王国の兵士の遺品であろう。ここから見るに銃の手入れや弾丸の補充などは出来ていなさそうなため、高度700m位までなら飛べる私が空に逃げてしまえば弓や銃も届かない。

 襲われた時に鷹の目が助けてくれるとは思っていないため、注意深くヒューマンドリルを観察し鷹の目と距離が空きすぎないよう背中を追う。しばらく歩いていると大きな門がギィィと軋みながらも出迎えてくれた。


「入れ」

「邪魔する」


 入ってまず感じたのは外観と違って中が綺麗だということだ。鷹の目が掃除しているのだろうか。確かに鷹の目も身は小綺麗にしている。鷹の目の後ろ姿を上から下までじっくり見ていると何を見ている、と前を見たまま言われた。


「驚いた」

「なにがだ」

「鷹の目は後ろにも目がついているのか?」

「そうだ」


 そうなのか。鷹の目には目が3つあるとは知らなかった。生まれつきなのか聞くと、才能と鍛錬が必要だそうで、やはり七武海の海賊ともなるとなんでも出来ていなければならないのか。

 鷹の目の後をついて行き、たどり着いたのは想像以上に豪奢な部屋で流石元王城だと感心する。


「貴様は能力者か」

「あぁ。個人経営で配達やってる程度には速く飛べる」


 少し胸を張り腕を羽に変えて答えれば鷹の目は鼻で笑った。なかなか空を飛べるやつはいないだろうに。鷹の目は赤い布が敷かれた椅子に座りワインをグラスに注いでいる。私は入口付近に立ったままだったが、鷹の目に視線で座るよう促され近くにあるソファに腰かけた。


「運び屋か。どのくらいの距離を飛べる」

「あぁ。赤い土の大陸を越えない範囲であれば、危険物やあまりにも大きい物以外の荷物を陸の配達員より早く運べる。時間に関してはこの前ジャヤ島からウォーターセブンまで飛んだら1時間かからないぐらいだったな」

「ふむ」

「なんだ、依頼か?」

「近くの島で野菜の種を数種類買ってきてくれ」


 この島で農作物でも作るつもりか。上空から見た限り作れそうな畑等は無く荒地が拡がっているだけのように見えたが。


「ここで作物を育てるのは難しいぞ。雲で日光があまり入らないだろう。それでもいいのか?」

「雲くらい造作もない」

「そうか。無粋なことを聞いたな。気に障ったならすまない」


 強い奴は雲を払うことも出来るのか。鷹の目が七武海の1人ということは同じことが出来る奴があと6人もいるということなのか。末恐ろしいな。

 気にするなと鷹の目から差し出されたワインを1口含む。私の口にはワインは合わないようだ。とっくの昔に成人しているが酒はあまり飲まない。渋いのも苦いのも苦手なのだ。果実酒でも体調が良くないと飲めない時がある。


「飲めない口か」

「量は飲めないだけだ。......配達に関してだが、料金は先に貰うことにしている。ここから一番近い島だと5000ベリーだ。それにプラスで買い物代行料金2000ベリーと野菜の種代だな。種の分は後で領収書を渡す。種類に希望はあるか?」

「そうだな。トマトとキュウリ、米と......」


 どうやら鷹の目は畑だけでなく田んぼも作ろうとしている。道具はどうするつもりか聞くと自分で作れるらしい。剣豪にもなるとなんでも出来なければならないのか、なんでも出来るから剣豪になれたのか。ここに来てから私の常識が崩されるばかりだ。

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