美味しく食べる君が好き
「はーい、お待ちどうさま。コーンたっぷり味噌ラーメン大盛りと、醤油豚骨ラーメンのネギ増しです」
暑い日だからこそ熱いものが美味しくなる。今日は飯友である月島さんと真夏のラーメンを食べに来ていた。店員さんから見れば私と月島さんは謎の組み合わせだろう。
お互い元々ひとり飯をしていたのだけれど、月島さんが女子に人気のパンケーキ屋さんの前で困り顔をしていた所に私が声をかけたのが月島さんとの出会いだ。
「美味そうだ」
「後でちょっと分けてくださいね」
「あぁ」
両手をパチンと合わせていただきますと声を合わせる。鶏ガラベースのスープに焼豚から溢れている脂が浮かんでいて、湧いてくる唾液を飲み込んだ。レンゲでスープを掬い、箸で麺を乗せて同時に口の中へ運ぶ。
鳥と豚の出汁が口の中いっぱいに広がって幸福感に溢れる。麺はもちもちとしたちぢれ麺で、硬すぎず柔らかすぎずでとても美味しい。分厚く切られた焼豚にかぶりつくと炙られたことにより閉じ込められた肉汁が喉を潤す。
「んんん美味しい......」
「相変わらず美味そうに食うな、ほら」
「ありがとうございます。私のもどうぞ」
「ん、貰う」
お互いのラーメンを交換してズルズルと音をたてて啜る。海外では食事中に音を立てるのはマナー違反だが、麺類は啜ることによって麺に絡んだスープごと美味しくいただける。音を立てて麺を啜る日本の文化、考えた人は天才だと思う。
月島さんが頼んだ味噌ラーメンはコクがあって、ピリッとした辛さに汗が吹き出る。しかしこの辛さがまた食欲をそそるのだ。コーンをレンゲにたっぷり乗せて噛み締めると素材の甘さとシャキシャキ感がスープの辛さと相まってまた美味しい。麺は少しかためのストレートで、喉越しがよく満足感に満たされる。次この店に来た時は味噌ラーメンを頼もう。
「こっちも美味いな」
「でしょう!!必死に色んな店のレビューを見てた甲斐がありました」
「いつもどうやって美味い店を探しているんだ?」
「これです」
スマホを取りだし、とあるアプリを開いて月島さんの方へ画面を向ける。月島さんがそれを見ている際にお互いのラーメンを戻して、残りをずるずると汁を飛ばしすぎないように気をつけながら食べる。
月島さんに見せたのは若い人たちがよく使っているアプリで、色んなお店が写真を載せたりして宣伝しており、食レポだったり映える写真だったり気軽に色々投稿できるSNSだ。
「若いやつらの使っているものはよく分からん」
「年寄りみたいな発言してますけど、そこまで年取ってないじゃないですか」
「もういい歳したおっさんだ」
渋い顔をしてラーメンの残りを大きな口で食べ始めた月島さんは大手の会社に勤めていて、そこそこの役職についているらしい。最近いずれ上司になる予定の役員の息子さんに指導しなければならなくなったらしく、よく頭を抱えて愚痴を聞くことがある。緊張や興奮すると早口の薩摩弁になるみたいで、その通訳をすることもあるのだと聞いて首を傾げた記憶は新しい。
「ご馳走様でした」
お会計は最初の頃は私が払おうとしたら月島さんが私の財布を取り出す手を止めて、いつの間にか払ってくれていたのだけれど、罪悪感がとてものしかかってくるので払わせてくださいと何回も頼み込んでやっと払わせて貰えるようになった。俺の方が給料貰っているから気にするな、とは言われるが、申し訳なさが勝つ。
だから、甘いものを食べに行った時は私が払うようにしている。月島さんは一緒に食べに行ってくれるだけでいいんだがとは言うが、そこはお互い様ですと答えると渋々引いてくれた。
「美味しかったですねぇ」
「暑い日に冷たい室内で食べるラーメンは美味い」
ほぅと息を吐いてジリジリと熱を持つアスファルトへと足を進める。汗で肌が透けており、ジムに通っていて鍛えているという逞しい背中が見えている。ボディビルダーにでもなれそうだと考えながら、彼の背中を追いかけた。
「今度はかき氷食べに行きませんか」
「かき氷、いいな」
「じゃあまた来週、いつもの場所でお願いします」
「楽しみにしてる」
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