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 ウタちゃんが赤髪海賊団の船から降りて10数年、ルフィがフーシャ村を出て2年弱経った。フーシャ村は相変わらずゆったりとした時間が流れており、昔と違うところと言えば1番の騒がしさの原因が居なくなってしまったくらいだろうか。

 あんなに小さかったルフィもいつの間にか私の背を抜かし、懸賞金がかかって世界中に知れ渡るほどの有名人になってしまった。朝の新聞に挟まれてくる手配書の写真を見て、ルフィの成長した姿を見るというのもおかしな話だけども。

 反対にウタちゃんの方は全く情報が入ってこない。写真を見掛けることも無く、風の噂でも聞かない。あの子は一体どうしているのだろうか。寂しくて泣いていないだろうか、と少ししんみりとした気分になる。


「2人とも元気にしてるといいな」


 誰にも聞かれることの無い、私がぽそりと呟いた言葉は突風に攫われた。

 シャンクスさんの言う通り、夢を叶えるために降りたのならば、きっと私の知らないどこかの国で歌っているんだろう。力もお金もないから自分で直接探しに行くことは出来ないけどもウタちゃんともルフィとも会いたい気持ちでいっぱいだ。

 風車の上部の窓から外を見渡すと、青々とした草原が風と共に夏の爽やかな音を奏でる。風車内の掃除で黒く汚れた手を掃除用エプロンで拭い、片付けている時にたまたま見つけた映像電伝虫を水で濡らした布巾で綺麗に拭いた。弱ってはいるがまだ機能しそうだ。早速帰ってから使ってみようと、私は見つけた映像電伝虫をもって少し離れたところにある家へとのんびり歩いて帰った。

 3人で歩いた思い出の道を辿って。




「うーん、ちゃんとつくかなぁ」


 家に帰ってきて直ぐに映像電伝虫をぬるめのお湯で洗う。手で優しく汚れを洗い流し、タオルで拭いてピカピカになった映像電伝虫は少し元気になったようだ。今朝畑で取れた野菜を食べさせている間に、殻の部分を触る。

 びかっと大きく目を開けた映像電伝虫。驚いて手を離しそうになったが両手で持ち直し顔の前まで持ち上げた。殻の上に着いているカメラ機能の部分から壁に映像が写った。

 赤と白のツートンカラーのお姫様のような髪型。太陽のように笑う顔。聞く人すべての心を掴む歌声。

 私が会いたくて仕方がない、あの子が大きくなったらこんな姿だろうなとイメージさせる女の子。


『みんなー!ウタだよ!』

『今日はこんなものを用意したんだ!これは......』

『♪♪♪』

『海賊共になんかには負けない!』

『これを見てくれているみんなに大きなお知らせがあるよ!今度わたしのライブがここ、エレジアで行われるよ!』


 子供の頃のふくふくとした丸みはなく、少しやつれてはいるが女性らしくなっているその姿を見て頬に熱いものが伝う。視界が徐々にぼやけて、握りしめたズボンには水玉模様ができた。

 これってこちらの様子は見えるのだろうか。そう思い立ちウタちゃんの配信が終わった後、映像電伝虫を覗き込んだが、すやすや寝ていた。


「また会いたいな」


 目の前で口をむにゅむにゅさせている電伝虫の頭をつつくと角がきゅっと引っ込んだ。

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