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 ウタちゃんと別れてから何週間経ったか。つい先程赤髪海賊団の旗が見えたと、ルフィは私の家まで知らせに来てくれた。


「おーい、ナナ姉ちゃん!シャンクスたちが帰ってきた!!」

「今回は長かったねー。知らせてくれてありがと!」

「ナナ姉ちゃんも一緒に行くぞ!」

「うん!」


 大きな声に手に持っていた本に栞を挟み、慌てて靴を履く。ルフィは私の周りをくるくると周り早く早くと急かしてくる。それに焦ってしまいなかなか靴紐が結べない。服の袖をルフィに引っ張られながらも、何とか結ぶとルフィと共に海辺へと駆け出した。


「おーーーい!!」

「おかえりなさーーい!」


 ルフィと叫びながら赤髪海賊団の係留場所に向かうと、いつもの騒がしさがない。誰一人として口を開けず暗い顔で船から降りてきている。一体何があったのだろうか。
 ルフィはウタちゃんの名前を呼ぶ。その声に赤髪海賊団の船員達はさらに暗く重たい雰囲気を纏い、足を村の方へと進めていた。

 1番最後に赤髪海賊団の船レッド・フォース号から地面に足を下ろしたのはシャンクスさんだ。こちらもまた暗い表情を浮かべており普段のシャンクスさんとは別人のようだった。

 今日は寡黙な船長にルフィはいつも通りの笑顔でいつも通り話しかける。


「なぁシャンクス、ウタは?」


 私でも今その話題はあまり良くないことは分かる。ルフィは疑問に思ったことはすぐ口に出し人に聞く。聞くはいっときの恥、聞かぬは一生の恥とは言うくらい人に質問するのはいい事だと思うが、この状況には良くなかった。

 ルフィの問いかけにシャンクスさんは村へ向かう足を止め、立ち尽くす。


「ウタは歌手になる夢のために船を降りた」


 私はその雰囲気に耐えられなくなりルフィとシャンクスさんから離れ、先に村の中心部へと戻った。

 ウタちゃんにはきっと船に居られなくなった別の理由があるんだ。じゃないとあんなにウタちゃんを溺愛していた赤髪海賊団が暗い顔をしているわけが無い。嘘だ。






 その日のPARTYS BARでは飲んだくれた赤髪海賊団が皆やけ酒をしていた。酒場の中へ入ろうとすると大きな声と共にルフィが飛び出して村の郊外へと走っていく。驚いてしばらく放心していたが、私がそっと酒場の扉を開けて入ると机につっ伏す人、悔しげな顔をする人、目を伏せる人等様々だった。マキノさんの顔を見れば眉を下げてもの悲しげな顔をしている。

 いつもの席に座ってただ無言でお酒を飲んでいるシャンクスさんの隣に座る。シャンクスさんは私に視線だけよこすと、ぐびりと喉を鳴らして持っていたお酒を飲み干し音を立てて樽ジョッキを置いた。


「ナナは何にも聞いてこねェんだな」

「......何かあったことくらいは私にも分かるもん」

「そうか」


 新しいお酒を注ぎ、また一気に飲み干すシャンクスさん。あまり飲みすぎると明日大変だよと言うと、今日くらい飲ませろと私の頭をガシガシと乱雑に撫でまたお酒を注ぐ。

 シャンクスさんは酔ってきたのかぽつぽつと何度目になるか分からない私が出会う前のウタちゃんの話をしだす。戦利品の宝箱に赤ん坊が入っていたこと、船員たちが歌を歌って踊ってやっと泣いていたウタちゃんが泣き止んだこと。


「俺の娘は夢を叶えるために船を降りたんだ。降り...たんだ......」


 酒場の照明が逆光となりシャンクスさんの顔はよく見えない。だからどんな顔をしていようが私には何も見えないし分からないのだ。

 私はただ何も見てないフリをして、突っ伏して寝てしまった赤髪海賊団の船員たちにカウンター裏に置いてあったブランケットをかけていった。

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