今日は天気がいいから、船の周りにはどこまでも青く壮大な海が広がっている。マルコは船淵に肘を掛けて前屈みに寄り掛かり、ずっとそればかりを見ている。それを見ていたら、なぜだか忘れたはずの寂しさがわき上がり、こちらを見て欲しくて思わず名前を呼んだ。

「マルコ」

どうした、と返事をくれても、こちらに顔を向けてはくれないものだから、焦れてこっちを向けよと言って腕を引いた。その瞬間にああしまった、と後悔をしたのだけど、振り向いたマルコは意地の悪い大人の男の顔をしていて、やっと本心みせたな、と笑った。

「……わざとなんてきたねえよ」
「ああ、俺はきたねえよい、お前が手を伸ばして欲しがればいいと思ってるからな」

でも無理矢理掴むような真似だけはしたくねえんだよい、と囁くように言いながら、俺の手を掴むマルコの手の平は、かさついて熱かったけれど優しかった。その言葉も感触もこわかったけれど、振り払う勇気も気持ちも俺には無かった。

「くそ、もう二度と伸ばさねえ」

苦しくなって小さく吐き捨てれば、ならこの手は二度と離さない、と強く握られた。俺の本心も欲しいものも、わかっている癖にマルコは意地が悪い、そしてずるい。けれど一番ずるいのは、それを与えて欲しいと思っている俺かもしれなかった。

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