サッチの言った通りにまっすぐ歩いていると、コートを肩に掛けて座る大きな背が見えた。ああ、これは確かにすぐにわかる。俺達の船長であり、父親であり、誇りであるエドワード・ニューゲート。その規格外な身体が白い花々の中にあるというのは何とも微笑ましい光景だ。

「親父!」

呼んでから、少し走って近寄る。振り向いた大きな背は、三日月のような白い髭を揺らし、俺を見下ろして笑った。

「ああ、マルコ、おめえか」
「ああ、俺だよい」
「どうした、なにかあったか」
「皆を探してるんだよい。いい加減戻れって言いたくてな。親父もそろそろ戻れよい」

あまり外に居ても身体に障るだろう、という思いもあってそう口にしたのだけど、こんないい天気にかたいこと言うもんじゃねえよ、と一蹴されてしまった。寝てばかりいるのがすきではないことを知っているから、予想は出来ていたが。しかし、本当にいい天気だ。時折吹く風は冷たさを持たず、花の匂いを運んで甘く柔らかい。これでは皆が外で羽を伸ばしたがるのもわかる。けれどそろそろ船へ戻って欲しいとも思う。動き出す準備は済んでいるのだから、次の場所へ行きたいのだ。大地を感じさせる場所もすきだが、俺にはやはり青い海が恋しい。能力者であるから触れることは出来ないけれど、それでもやはり焦がれてしまう。海へ出たい。

「生き急ぐんじゃねえぞ」

まるで心を読んだように白ひげはそう言った。けれどそんなに急いではないし、そんなに深いことを考えてはいなかったので、そんなつもりはねえよ、と返した。するとグラララと特徴的な笑い声を上げ、白ひげは大きな手の平で俺の頭を撫でた。皮が厚く温かなその手は、いつも俺に愛と安心をくれる。ありがとう、と言う思いを込めて俺は静かに笑った。

「あっちにエースが居たぜ」

俺を撫でていた手で自分の背後を親指で指し示した白ひげは、そのまま寝てしまった。こうなってしまえば、俺ひとりでは起こせない。暖かいから風邪をひくことはないけれど、やはり心配だ。はやく皆を集めて起こすのを手伝ってもらわなければ。船にも戻せるしそれがいい。座ったまま静かに眠る白ひげの顔を眺め、少し待っていてくれよい、と口にして、エースが居る方へ歩き出す。


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