自分の腰程までの背丈がある白い花の中を歩いていた。空は晴れ渡り、風もないのに雲が少ない。青と白が織り成すその景色は、遠く向こうに視線をやっても果てが見えないし、誰の姿も見えない。皆遠くに散らばりすぎだ、はしゃぎやがって。もうすでに十分歩いたので足は疲れているが、一人でここに立ち尽くしていても時間の無駄だと諦めて、瑞々しいにおいごと花びらを掻き分けさらにざかざかと進んでいく。土の匂いがした。

どれだけ歩いても景色は変わらず、ただただ青と白が広がっている。そろそろ能力を使って上空から素早く見付けてしまおうか。そう考え、目を伏せてため息をついた所で耳に馴染んだ声がした。

「よ、マルコ」

目を向けると、リーゼントヘアに、髭をたくわえた男――サッチが居た。

「お前、こんなとこに居たのかよい」
「ああ、ずっと居たぜ」
「皆もお前も、どこにも居ないから探したよい。おかげで疲れた」

そう言うと、サッチは軽快に笑って、疲れるにはまだ早いぜ、と言う。どういう事だ、と返せば、どうせまだ俺しか見付けてないんだろ? と片方の眉を器用に上げてみせた。その通りだったので、うるせえ、と吐き捨てれば、またもサッチは笑う。その髭を毟ってやりたい。

「お前も手伝えよい」
「手伝ってやりたいけど俺はもうしばらくここに居てえんだ。それにさっき会ったばっかだしな」
「会った? 誰とだよい」
「ここをまっすぐ行けばすぐにわかるさ」

優しい口調とは裏腹に、おどけて両の手を広げて見せるから、思わず少し笑ってしまった。

「ありがとよい」
「おうよ」

向かいに立つサッチの、白い服を纏う右肩に、右の拳をこつりと触れさせ、また花の群れを掻き分け歩き出す。いい加減船に戻れと、皆に言わなくてはならないのだ。まったく世話が焼けるやつらだ。後ろでサッチが何かを叫んだ。

「たまには休めよ!」



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