ふらっと立ち寄った島でひとりの女と夜を共にした。歳は上で、静かな色気があり、花を売ることに慣れている女しか俺は選ばない。
オレンジ色の小さなランプしかない闇の中、女は苦しげに呼吸をする合間、俺の背に手を回した。女がスカートのファスナーを下ろしている際に見た爪は、長く伸びていたはずだ。

「悪いが爪を立てるなら肘から下、それか肩のあたりにしてくれないか、入れものに傷がつくのはいやなんだ」

少し眉を下げて笑うと、女は詰めていた息をととのえ、目を細めて艶やかに笑った。その表情の奥には、わがままを言った子供を甘やかすような宥めるような、仕方ない子ね、といった言葉が見て取れた。
すまねえな、と詫びと礼を含んだ言葉を続けて口にすると、後で髪を結ってくれる? 私ひとに髪を触ってもらうのがすきなのよ、と言った。あんまり器用じゃねえから、少し不恰好になっても構わねえか、と問うと、それも味があっていいヘアスタイルになるわ、とさもおかしそうに笑った。シーツに広がる長い赤茶の髪は、張りと艶があり、櫛通りも手触りもよさそうだ。
あんたいい女だな、と改めて思った事を口にすると、白い歯を惜し気もなくさらした悪戯っぽい笑みで、

「チップはずんでね」

と言った。びっくりする程いい女だった、あの男によく似た青い瞳も含めて。

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