自分から心を開くなんていうのは怖い、純粋な恐怖だ。それならばまだこじ開けられる方がいくらか恐怖が紛れる。そのようなことをやんわりと言うと、彼は笑ったまま返す。

「それは俺、いやですよ。だってこじ開けたら小さくても絶対傷はつくじゃないですか」

ああ、彼は正しく理解している、こじ開けてくれと遠回しに言った俺の逃げを理解して、丁寧に捕まえたうえで拒否している。その率直な優しさは俺には持てないものだから、時折彼が眩しくてたまらない。だからこそ、怖い癖にこんなにも欲しくなるのだろうか。無い物ねだり、という言葉は人間の真理なのではないか。

「桃城、」
「忍足さん」

謝ろうとした俺の言葉を遮って、彼は続けた。
あんたに傷をつけるのが怖いってわけじゃないんすよ、その傷の責任をとれると思うくらいにはすきだし。でも一度傷ついたらもういいや、って何もかも投げだしそうじゃないすか、痛いのとか怖いのとか全部。諦められちゃったらそれってもう無反応と同じでしょ、俺はそんなのいやですもん、無反応なあんたはつまらないっすよ。痛いとか怖いとか思わせたいわけでもないですよ、まあちょっとそういう反応見てみたいなとは思いますけど、進んで見ようとは思わないっす。あれ話逸れたな。
俺は生きていろんな反応見せるあんたがすきなんで、死体のような無反応になっちゃったら、もうそれって俺のすきなあんたじゃないと思うんです。そういうことです。

「俺説明とか下手なんでよくわかんないすね」

と、少し照れ臭そうに彼は頭をかいた。無反応な自分に興味はないし自ら進んで見たくはないと言ったけれど、それならば痛みや恐怖を投げださないからこじ開けてくれないか、と自分が言ったらどうするのだろうか。彼は笑って承諾する気がする、いやするだろう。
寛容や無邪気さを持つからこそ彼は、嗜虐性も持ち合わせている、底の知れない穏やかな笑みを見せる。ああ本当に食えないくせ者だよ、おまえは。そんな桃城をすきだと思う自分を諦めても、そんな無反応はつまらないと、彼は言うのだろうか。


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