「なに描いてるの?」
「ただの落書きだよ」
わたしが尋ねると彼はそう言いながら机にボールペンを放ってしまった。露伴はジャムの塗ってあるトーストを食べながら、メモ帳みたいな小さな紙に熱心に何かを描いていたのだ。
「見てもいい?」
「構わないけど」
テレビに目を移した露伴。なんだか拗ねてるように見えなくもない。ぺらっと手に取った小さな紙にはカチューシャを付けてワンピースを着た女の子と、彼女に寄り添うように立つ犬の絵が描いてあった。
「新しい漫画のキャラクター?」
「違うよ、落書きって言っただろう」
落書きねぇ。それにしては力のこもった落書。露伴にばれないように小さく笑った。彼の漫画は全部読んだけど、この絵の女の子はわたしが今まで見たことがない顔をしている。
「大切な子なのね」
「ん?なんて言ったんだ?」
「独り言」
訝しげに私を見る露伴を見たら笑ってしまった。露伴も人間だったのね。
.