容赦無く俺の左頬に飛んできたビンタに、サイボーグの俺が痛みを感じることはもちろんなかった。
「いったああ…」
右手を抑えて蹲るなまえさん。驚いた俺はどうすればいいかわからないまま立ち尽くした。彼女は兄である先生とそっくりで穏やかな気質をしている。というよりドライなのかもしれない。どちらにせよこういうことをする子だとは思っていなかった。
「なまえさん、怒っているんですか」
「…もちろん」
彼女のコンプレックスである鋭い目が俺を見上げた。
「俺が弱いからですか」
「違う、違うわよ、ジェノスさん」
眉を寄せて、泣きそうな顔をする。ああ、どうすればいい。こんな顔をさせたくはなかった。
ガロウとの戦いの後、体を修理してから戻ってからというものどこかなまえさんの様子がおかしかった。なんだか寂しそうな悲しそうな顔をしてばかりで、なるべく俺と二人きりになるのを避けているように思えた。
「なまえさん、すみません、俺、」
とうとう彼女は柄にもなく涙を滲ませて俯いてしまった。俺は腕を伸ばしたが、すぐに思いとどまった。
抱きしめようと、慰めようと伸ばした腕は復讐鬼の醜い凶器だった。俺は彼女を悲しませることしかできないのか。
「すみませんなまえさん、すみません」
何故だか彼女にぶたれた左頬がひりひりと痛む頃、彼女は俺の手を握った。
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