Merry Christmas


静雄との釣り合いを考え、臨也もフォーマルなスーツを選んだ。
色は静雄が濃紺であるのに対し、自分は薄い青である。
髪を整えて並べば似合いのふたりと言われる自信はあった。
着替えた臨也を見た静雄はひと言「……悪くない」と言ったきり、口をつぐんだ。
そんな彼をせき立て、外に出る。道行く人々に恋人を自慢したい気分だったが、さすがにそれはしない。
ただ、精悍な静雄と並びたち、機嫌よく街を歩く。
イヴにふさわしい華美な演出に浮かれていた。

「寒くないか?」
「俺は特に。シズちゃんは?」
「平気だ」

今年の年末は例年に比べて冷えるらしい。
時折、雪がちらついていた。ホワイトクリスマスという言葉が頭をよぎる。
クリスマスイヴ、夜の街は人と活気で溢れていた。
行き交う人の間を縫うように歩き、臨也と静雄は目的地を目指す。
信号で足をとめたときにふと空を見上げると、冷たいものが顔にふれた。
雪だ、と静雄が呟く。

「今年は雪、積もるかな」
「積もったら雪合戦しようぜ」

楽しそうに提案され、顔をしかめた。

「やめて死ぬ」

わざとらしく体を震わせる。
すると彼に小突かれた。

「よく言う。当たりゃしねえくせに」
「たかが雪合戦で戦場並の瞬発力求められたくない」
「雪玉だぞ」
「シズちゃんが投げたら銃弾と一緒」

他愛ない話をしながら、人の流れに乗って横断歩道を渡る。
頭ひとつ飛び出た静雄は目立つ。着飾っていればなおのこと。連れ合いは同じくめかし込んだ男で、自分たちが視線を集めていることは静雄もわかっているようだ。
けれど彼は特に気にした様子もなく、楽しげに自分に笑いかける。臨也にとってそれは酷く心を浮き立たせる要因でもあった。

(ちょっと前まで、好かれたい愛されたいってさぁ)

寂しがり屋で不器用で、人一倍愛情に飢えた男だった。
しかしときがすぎれば環境も彼自身も変わる。今の彼が求めれば何もかもが手に入るはずだというのに、静雄はそれをしない。
理由はわかっている。

「? なんだよ」
「別に」

機嫌よく笑っているところを訝しく思ったらしい彼に声をかけられる。
まさか、ひとりの愛情で満足する恋人のいじらしさを噛みしめていた、とも言えず、臨也は首を振った。

「いいから、いいから。ほら、あそこ入口」
「?」

不思議そうな静雄をせき立て、足早に歩く。
しばらくすると大きなクリスマスツリーが設置された広場に出た。

「おー」
「うわ」

さすがに人が多い。
ツリーを見に来たカップルや友人連れ、待ち合わせの人々。広場は人で溢れていた。
臨也と静雄の二人もツリーを見上げ、イルミネーションを楽しんだ。

「どう?」
「光ってる」
「それは見たらわかるってば」

感想を聞けば簡素に答えられてしまい、思わず吹き出す。静雄らしい。

「こういうときは君のほうが綺麗だよ、って言うといいらしい」
「どこネタだ」
「風の噂?」
「信憑性ねえなぁ」

馬鹿にしたように笑うものの、彼はあたりを見回してからこちらに顔を近づけた。
静雄はためらいがちに口を開く。

「……言われたいか?」
「言ってくれんの?」

驚いて聞き返すと、彼は肩をすくめる。
多少の照れもあるのか、視線は下を向いていた。

「今日の俺は俺であって俺じゃないからな」
「うわぁ、大盤振舞いだね」

恥ずかしい台詞も普段と違う状況でなら言えるのか、静雄は気前のいいことを言う。
それに乗らない手はない。

「じゃ、言って」
「…………」

彼の顔を下から覗き込むように頼み込めば、静雄は小さく咳払いをし。

「……綺麗だぞ」
「……ふっ!」

小さな声で呟いた。
目元が赤い。それを見てつい、臨也は笑いをこらえきれずに声を出してしまう。

「なんで笑う!」
「……う、嬉しいんだよ」

笑いを噛み殺しながら弁明する。思った以上の破壊力だった。
ただでさえ、普段は自分の魅力を隠しているのか気づいていないのか、とにかく無頓着な恋人である。
それがこうも着飾り、あげく甘い言葉まで。嬉しいやら驚くやらで今夜は本当に忙しい。
涙の滲んだ目尻を指でぬぐいつつ、彼に問いかける。

「俺も言ったほうがいい?」
「いらん」

そっけない返答だが、その顔は真っ赤だ。
これ以上からかうのはさすがにかわいそうで、臨也は押し黙る。浮かぶ笑みはどうしようもないが、それくらいは許してもらおう。
数分ほど、互いに無言で光の演出に意識を奪われていた。
やがて、腕時計を見た臨也が口を開く。

「ご飯の場所どこ?」

ここからの距離と予約の時間によっては、そろそろ移動したほうがいい。
静雄はといえば、いたずらげに笑い。

「内緒」
「…………」

ひと言、そう言った。

「じゃあ、時間は?」
「間に合うようにつれてくから」
「…………」

質問にはかたくなに答えてくれない。
黙ってついて来いと言われ、臨也はなんとも言えない心地になった。
普段、こういった役回りは自分のはずである。それが今は静雄のペースで、どうにもむず痒い。
嬉しさと照れくささ、ほんの少しの驚きが混ざって、小さく嘆息する。

「完璧なエスコートだよね。惚れ直す」
「おう、そうしろ」

いたずらが成功した子供のように、彼は満足げに笑った。






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