WORLD5(さよなら世界)
2013/05/27 02:29

途方もない話だ。
ありえない仮定。
そう一蹴してしまいたいのに、静雄は何も言えなかった。
それは臨也の声や視線が、いつもより格段に真剣に見えたからかもしれない。
囁くような声が耳朶を打つ。

「望んでたものが手に入ったら、そのとき君はどうするの?」
「…………」
「受け入れる準備もないままじゃ、いざその時が来ても取りこぼしちゃうよ」
「…………」

(この野郎)

勝手なことを、と歯を強く噛みしめる。
ぎり、と奥歯が鳴った。

「そんな、日」

来るもんか。
吐き捨てるように言うつもりだった。
けれど、静雄の胸中が言葉になる前に臨也が距離を詰めて囁く。

「――来ない、なんて」

あまりに近くて臨也の顔がぼやけて見える。
彼の黒く艶のある髪が夕日に照らされて眩しい。
そんなことを考えていると――。

何か、やわらかなものが唇にふれた。

「…………」
「…………」

数秒か、あるいは数分。
時間の感覚が鈍くなる。
キスされたと自覚した時には臨也は顔を離し、小さく笑っていた。

「もう言えないね?」
「…………」

何が、何を。
静雄は混乱の中にいて、とけるように赤い陽の色ばかりが目についた。

十七の頃。
何かが変化する兆しが二人の間には芽生えていた。
それはまだ風の心地いい、初夏の出来事だった。



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