迷惑電話14(end.)
2013/04/30 21:22
「ねえ、結局なんなの、この深夜の迷惑電話……」
聞かずにはいられない。
愚問、という言葉が脳裏をよぎるが感情を抑えられなかった。
せめて何か意味があると言ってほしい。
でなければこの疲労感はとんだ無駄骨ということになってしまう。
けれどこちらの気も知らず、あちらの臨也と静雄は呑気な声で会話する。
『……なんだっけ?』
『あ? そりゃ友達だから報告すんのは当然だろ』
『あ、そうだ、そういう話になったんだ』
「…………」
報告。
要はめでたく結ばれたのでその連絡を、ということだろうか。
なるほどそれはありがたい。
ありがたくて涙が滲んだ。
「……ねえ……友情って……なんだろうね……?」
一人寝の寝室に目をやりながら新羅は呟いた。
なぜ他人の情事について耳にした上に、幸せいっぱいの友人たちののろけを聞かなければならないのか。
(そうか、これがハンムラビ法典ってやつか……)
目には目を、と誰かに囁かれた気がした。
いっそ自分が今まで彼らに行っていたのろけに対する意趣返しと言ってくれたほうがまだいい。
たちが悪いのは彼らにはそういう嫌味というか、含みがないことだ。
おそらく純粋に言葉どおり、新羅に報告せねばと思ったのだろう。
どっと疲れと虚しさと、そして嫉妬が胸によぎる。
「あー、くそ、僕だってヤりたいっての……あー、セルティ……僕のスウィートエンジェル、僕のオアシス、僕のエデン……」
たまらず恋しい恋人の名前が口を突いた。
あまりに切々としていたからか、電話の向こうの二人の困惑する様子が伝わってくる。
『なんか……ごめん?』
『あー、よくわかんねえけどわりぃ』
「…………」
ぷちっ、と何かが切れる音。
そして――。
「謝るくらいならすんなよ馬鹿ぁっ! こっちはこの一ヶ月ずっと禁欲生活だぞ! ちょっとは気遣えよぉおお!」
我慢の限界である。
新羅は大声でわめいた。
(セルティ、セルティセルティセルティィィイイイイ!!)
考えないようにしていたが、もはやそれも無理である。
仕事で傍にいない恋人への思慕が一気に噴き出した。
何を思ったか狂乱する新羅に対し、二人は感心したような声を出す。
『おまえって性欲あったんだな。てっきりもう枯れてるかと』
『つーかおまえ、セルティに妙なことすんなよ』
(おおおおおまえが言うか??!!!)
静雄の一言に新羅は噛みつく。
おまえにだけは言われたくないとあたり散らした。
「そっちこそよく普通にセックスできたな! 怪力はどうした! 人外の体質はどこいった!」
彼の体質に言及する。
昔は静雄もよくそれで落ち込んでもいたものだが――。
『あ、てめ、人の傷つきやすいポイントを……』
『ふふ』
なんとも呑気な反論が返ってきた。
隣で臨也が笑っている。
二人の態度がさらに新羅の怒りを煽る。
「なぁにが傷だリア充! のろける余裕があるくせに傷心気取るな!」
挑発するように言えば、なぜか静雄は恥ずかしげに言葉を紡ぐ。
嫌味が通じていないらしい。
『キレてるくせに、いちいち的確な反論やめろよ。あらためてのろけとか言われると照れんだろ』
「ああああああ! もぉぉぉおおおおお!」
噛み合わない。
いや、ある意味噛み合っているのだが新羅の望む会話ではない。
なんとも不本意な言葉の応酬が続き、こうして夜がふけていく。
嗚呼、友情の美しきかな。
(end.)
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