炎天下
2013/08/06 02:09

「あっちぃ」
「夏だからねー……」

休日、昼すぎに臨也と外に出たのは自殺行為だった。
最初こそ元気に歩き回っていた俺らだが、すぐに限界がきた。

「甘いもの食べるためだけに、この炎天下で並ぶ神経がすごい」
「熱でやられてんじゃね」
「ああ、一理ある。冷静な思考が保てず烏合の衆と化してるわけね」
「俺らもな」
「俺は今すぐにでも帰りたい」
「駄目」

歩き回ることに疲れると、俺は休みたいと言う臨也を強引に連れて人気のスイーツ店に来た。
休日ということもあって待機列がすごい。
一瞬、気が遠くなったが、大きな窓から見える店内の様子に俺はぐっとこらえた。目の前にうまそうなケーキやパフェが並んでいる。
ここまで来て食べずに帰れるわけがない。

「こうやって苦労して喰ったほうが一段とうまいだろ」
「食べて微妙だったらどうすんの……ていうか所詮ただのケーキじゃんかぁ……」
「そう言うな。ほれ、水」

ぐったりとうな垂れる臨也の首筋に買ったばかりのミネラルウォーターをくっつける。
その冷たさに少しは癒されたのか、臨也はほぅ、と小さく息をついた。

「汗が気持ち悪い」
「拭いてやるから」

ここで機嫌を悪くして帰られてはたまらない。
そう思った俺は甲斐甲斐しく面倒を見る。

「俺のお願いが聞けないくらい食べたいわけ? 甘いもの」
「おまえと喰いたいんだよ」
「一人じゃ恥ずかしいだけだろ」
「ま、それもある」

でも、なんのかんのと言ってつき合ってくれる恋人の甘さには及ばない。
俺はこいつが自分は特に食べたいわけでもないケーキを喰いつつ、俺の様子を呆れたように見るその顔が見たいのだ。
仕方ないなぁ、と笑う顔。あれを前に甘いものを頬張ると幸せの味がする。
だから炎天下なんて、たいした障害じゃない。

「帰ったら労わってくれんだろうね」
「おーおー、なんでもしてやらぁ」

おいしい幸せまであと三十分。

(end.)



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