戦闘訓練にて
彼の驚いた顔は、なんだか面白い。
リグレット、アリエッタと話してから数十分後、またノックが聞こえて入ってきたのは赤髪の彼だった。私達がまさか談笑していると思わなかったのは驚いた顔で、なんだか笑ってしまった。
「…リグレット、連れていくぞ」
「あぁ、私達も行こう、アリエッタ」
「はい、です」
椅子から立ち上がり、アッシュに連れられて部屋から出た。さっきまでは緊張しすぎてたけれど、初めて見る装飾や形の物にワクワクした。
「後で、案内するわ」
『有難うリグレット』
「アリエッタもする、です」
『じゃあ3人で行きたいな』
「勿論だ」
リグレットが、こんなにも笑う人だなんて思わなかった。画面越しのリグレットは笑わなくて、怖い。それしか感じることができなかった。
私達がいた部屋の近くの階段を下りて、奥に行くと読めない字が書いてある髪が貼られていた。フォニック文字、だっけ。確か姉さん達と覚えた記憶があるから、解読は難しくはない、はず。
扉を開けると、ゲームで見たことのある服を纏う人達。剣や槍を持って訓練している様子の彼らは、アッシュやリグレット、アリエッタが入ってきたことに酷く驚いていた。
(そりゃ六神将だもんね)
中を見渡せば緑髪の少年…シンクもいた。不機嫌そうにこちらに来てアッシュに悪態をついていた。
「…お前、剣は使えるか」
『どうだろう、分からない』
母が剣道をしていたこともあり、姉達と剣道を習っていたから、違いはあれど出来ないことはないと思うが。それを言うわけにはいかないから、曖昧なことを言った。
「体術は?」
『、分からない』
緑髪が言ったことにも、分からないと答えると、明らかに分かる殺気。面倒くさそうに舌打ちをした緑髪にアリエッタの肩が震えた。
『出来るかもしれないから剣貸して?』
「…あぁ」
きっとヴァンは、私も駒にするつもりだろう。ルーク達と、戦うことになるのだろうか。いや、今はそんなことよりも目の前の問題をどうにかしよう。
平兵士が使うのであろう剣を渡されて、すらりと剣を抜いたアッシュ。その姿は絵になる。格好いい、素直に思った。
「こい」
『うん、手加減はしないでね』
にっこり笑って言えば、困惑した顔。無理もないか、こんな剣なんて触ったこともなさそうな女が、手加減するなと言ったのだから。ヴァンに教わっているアッシュだもん、強いはずなのに。
『はァっ!』
「っ!」
ガキィン、と金属の音に、訓練場にいた兵士の目が、こちらに向いたのが分かった。
身体が、軽い。現実の、あの世界でこんなに身体が軽く動いただろうか。足も、手も、まるで誰かが乗り移ったかのように、剣を振るった。
『っち、』
しゃがみ込んで、足に力を入れてジャンプすれば、人間の脚力でも有り得ないくらい、ゲームや漫画の世界でよくみるくらいの高さを跳んだ。軽い、楽しい。そんな思いが頭を占めて、頭に浮かんだ、言葉。
『空翔斬!』
空中から、切り付けた。
「…くそ!」
『、ひゃあっ』
キィン、と甲高い音と同時に手から持っていた剣が離れた。バランスを崩して空中から落ちる、と目を閉じると、手首を思い切り引かれて、間抜けな声をあげた。
からん、と金属音がして、剣が落ちたのだと悟る。手首と、掌の痛みはあるものの、他に痛みはなかった。
「ホマレ、…大丈夫?」
上を見れば眉を下げているアリエッタ。下を見れば、私を睨みつけるアッシュがいた。
戦闘訓練にて
20110924
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