もう駄目だと泣いて、









「あれ…キミ…」

「、え…?」


赤色のスーツに、長髪で背の高い男がリティルを見下ろしていた。顎に手を当てて「ユリウスの…」と呟いた男は、リティルを見るとニヤリと笑ってリティルの目線と合うようにしゃがみ込んだ。
男の言った言葉は、リティルには聴こえていない。


「ねぇキミ、何で泣いてるんだい?」
「…貴方には、関係ありません」


まぁそうなんだけど、と笑う男に、リティルは眉を寄せて睨みつける。男は「怒らせるつもりはなかったんだけど、」と困ったように笑うとリティルの頬に手を伸ばし、流れる涙を親指で拭った。ぴたり、止まるリティル。



「キミのことを、知りたい」
「え、あの」
「泣いてた理由も知りたいし…一緒に何処か行こうか」

「や、遠慮しま…」
「え、行く?そっか良かった」


この人、話聞いてない、聞いてくれない…やばい!見るからに怪しそうな人に捕まってしまった…!と歎いていると、男に手を引かれて歩き出した。


「あ、あの…っ」
「リドウ」
「え?」
「名前はリドウだよ。君は?」

「リティル、です」


ぼそ、と聞こえないような声で答えるもすぐ近くにいたリドウにはやはり聞こえていたようで「リティルちゃんか」とリティルを見た。

リティルはこの手のタイプが苦手であり、できたら関わりたくないと思うほどだったが掴まれた腕を振りほどこうとは思わなかった。

それほどまでに傷付いていたから。

もう、どうなってもいいやなんて、何処に向かうかわからない中、考えていた。















「兄さん?」

「あ、あぁルドガーか」


食材の買い出しから帰ってくると、頬が赤くなっている兄を見て、ルドガーはすぐにリティルとなにかあったと察し、タオルを濡らして手渡す。なにがあったか聞くのも忘れない。


「ちょっとな」
「叩かれたんだろ?ちょっとじゃないと思うけど」


大事な兄と幼なじみ。
このまま別れる、なんてことは避けてほしかった。やっと恋人になった二人を、ルドガーは応援していたし自分のことのように喜んでいたから。


「そういえばさっき…」


家に帰ってくる前、ルドガーは大通りでリティルに似た人を見たと話す。赤いスーツを着た人に手を引かれていたと伝えると、ユリウスはタオルをテーブルに起きGHSを開く。


刹那、ユリウスのGHSが鳴り、ボタンを押してメールを開くと、そこには涙を流すリティルの姿が映っていた。


「ルドガー、ちょっと出てくる」
「あぁ、気をつけて」


落ち着かない様子のユリウスに、ルドガーはきっとリティルだと感じて送り出した。


「後で愚痴聞かされるんだろうな」


ルドガーは溜息をついてユリウスが出て行った入口に目線を向け、夕食の下ごしらえのためにキッチンへ向かった。











「うん、で…ビンタして逃げてきた?」
「ん、そうなんです
ユリウスは否定もしないしただ謝るだけで、浮気は絶対しないってわかってるけど、」

「…けど?」
「不安なんです、私みたいな女より、ユリウスにはいい人沢山いると思うから」


必死に笑顔を作るが、その笑顔は悲しみで溢れていた。リドウはリティルの話を頷きながら聞き、泣きそうになるリティルの頭を撫でては努めて優しく笑った。


「君は、恋人に何を望むんだ?」
「女の人と話さないでとは言いたくないけど、でも」


優しく笑いかけたり、頭を撫でたりしないでほしい。

もっと、好きだって言ってほしい。

一緒にいたい、抱きしめてほしい



「………会いたい、」


リドウは「ふ、」と笑ってリティルを見る。大丈夫だと声をかけてやるとリティルは顔をあげてリドウを見る。なんでわかるの?と言いたげな顔だ。


「ユリウスとは、職場が一緒でね。アイツはよく君の話をしてる

可愛い恋人ができた、気持ちは嬉しいが告白されても困る、ってね」

「…うそ」

「嘘じゃないよ。
恋人が不安になるから、家にも来ないでほしいし、何も受け取れないって。社の女の子達は血眼でユリウスの恋人を特定しようとしてる」


知らなかった。
ユリウスがそんなこと言ってたなんて。私のこと、考えてくれていたなんて。

でも、どうしてユリウスは。


「今話したのが約1ヶ月前の話。
…先週、君がユリウスの恋人だってバレたんだよ。ユリウスのファンは陰湿な子が多くてね、

君を傷付けられたくなかったら…って、ユリウスを脅したらしいよ?」


さらなる事実。
そんなことになっていたなんて夢にも思わなかった。ユリウスは、私を守るために女の人といたのか。

だからあの時、女はユリウスに抱き着いていたのか。抱きしめていたのか。

止まり始めた涙が、また溢れた。

会いたい

ごめんねって、ありがとうって、言いたい。言わなきゃ、わたし


「…やっと来たか」
「え?」






「リティル!!」


「、ユリウス…」


息を切らして、額の汗もそのままに、ユリウスは二人に近付く。止まらない涙を隠そうと、リティルは目を擦る。


「リティル、リドウに何もされてないか?」
「酷いなユリウス。君の恋人が泣いてるって教えただけだろ?」

「お前は信用できない」
「あー、はいはい」


ユリウスとリドウのやり取りも、今のリティルはただ見ているだけ。どうした?と心配そうにユリウスが顔を覗き込むと、リティルは思わず抱き着いた。


「お、っと…どうした?」
「ごめ…ごめんなさい、っ」
「怒ってなんかないさ」



でも、とユリウスを見上げたリティルの目から流れる涙を親指で拭うと、ユリウスは笑う。いいんだ、と。そしてごめんと。


「私、なにも知らなくて」

「リドウ…言ったな?」
「泣いてる彼女が可哀相でね、つい口が滑っただけだ」


はぁ、と溜息をついたユリウスはリドウに、「一応、礼を言うよ」と告げるとリドウは「貸し一つだ」と残して去っていった。


もう目だと泣いて
(好きが、溢れる)



20121115

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本当はリドウをとことん悪い奴にしてやろうと思ったけどやめた\(^O^)/