喧嘩して、







「なんで、なにも言ってくれないの!?」
「すまない」

「謝ってほしいわけじゃない!」


ユリウスは、リティルの部屋に訪れていた。少しずつ恋人になってきていた二人。ユリウスは、恋人になった日よりも、一ヶ月前よりも、一週間前よりも、昨日よりも、リティルに惹かれ、愛しいと思うようになっていた。

リティルが笑う度に、胸が高鳴る…なんて自分もまだまだ若いな、と一人笑ってしまうほど。


そんな二人に、最初の試練が降り懸かってきた。

リティルの我慢していた思いが、ついに爆発したのだ。


「もう、いい」
「リティル」

「やだ、触らないで!」



ぱん、と乾いた音が静寂を破った。



「他の人を触った手で、触らないで!」

「、リティル!」



ユリウスを突き飛ばして部屋を飛び出した。流れる涙なんて気にもせずに、自分の家にも帰らずに大通りまで走る。

はぁ、はぁ、と荒くなった息整えながら、ぐす、と鼻を啜って涙を拭く。どうしてこうなったの、どうして。







この喧嘩は、ユリウスが浮気したからじゃない。そんなはずがない。



ユリウスは、ホッとする笑顔をくれて、一番欲しい言葉をくれる。抱きしめてほしいと思ったとき、ユリウスは何も言わなくても抱きしめてくれて、愛をくれて、


そんなユリウスに何が不満なの?と聞かれるだろう。

ユリウスは優しい。

優しいの、すごく。それが、すごく、辛い。

私だけにじゃない、ユリウスは、皆に優しいから。



私以外の女の子に笑顔を見せる。

私以外の女の子に言葉をかける。

私以外の女の子の頭を、撫でる。

泣きつかれたら相談に乗って、ファンの人からのプレゼントはちゃんと受け取る。
「ありがとう」と受け取って、手紙ならちゃんと読んでから処分する。


ユリウスからの好きだって言葉は嬉しいし、私だって同じ気持ちだけど、不安になるのだ。

つい先日まで、私は彼の「妹」だったのだから。



彼の「優しさ」が喧嘩の原因だった。



「、…うぅ…っ!」


声をあげて泣いた。
大通りで、それはもう盛大に。

このまま駅に行って、どこかに行ってしまおうかと思うくらいだった。


「絶対、きら、われた…っ」


だって、叩いちゃったもん。いくら優しいユリウスでも、怒っただろうし、嫌われた。そう思ったら、涙は止まることなく流れ続けた。



ユリウスが好きなのに、ユリウスの優しさに安心できたのに、いまは、辛い。


私だけに優しくして、

私だけに笑いかけて、

私だけ見ててほしい。


無理だとわかっていても、望んでしまう。願ってしまう。

ユリウスの恋人になりたいという願いが叶って、私は、欲張りになってしまった。


きっとユリウスは優しいから、私に言ったら傷つくとか、嫌な思いをするからって隠しているんだろう。恋人がモテるだけなら、私だって嬉しい、人に好かれる人と恋人だなんて誇れることだ。

けど、

なんで頭を撫でるの?
なんで肩を抱くの?
なんで優しく笑いかけるの?

やだよ、やだ。


優しいユリウスが、今は、大嫌い。



して、
(あぁ涙が止まらない)



20121113

我が儘だけど、これはきっと女の子の本音だと思ってます…勝手に。

恋人が人に好かれる人なのはとても嬉しい。
その人が優しいことも幸せになれる要因の一つ。

けれどその優しさが色々な人に向けられていたら、彼女ってモヤモヤしますよね。「私だけに優しくしてよ!」と。

人として良いことでも、ヒロインを傷つけている。ユリウスにとってヒロインは特別だけど、優しすぎるユリウスだから、色々な人にも優しくしてしまう。

うちのユリウスは不器用なだけなんです、多分(笑)