必然エンカウント





「遅刻ちこくー!」



自身の全速力でトリグラフ駅まで走る。マンションを出るとご近所さんがいってらっしゃい!と言ってくれるのでいってきます!と手を振りながら走った。



ジョルジュ
(必然エンカウント)




「あーっとお嬢さん!」
「え、…え、私?」
「そうそうお嬢さん…って、君はトリグラフの華じゃないか」


トリグラフの、華。病院にまだ私が勤めていた頃、重体患者を医療黒匣で治療したときに付いた名だ。私が、人を助けて精霊を殺しているという行為に、考えていた時期だ。私を呼び止めた人は、画面越しでも、そしてこの世界に来てからも見たことがある人だった。



「バラン、さん?」
「そう、バラン。久しぶり、ルリちゃん」
「お久しぶりです、お元気でした?」

「隣の棟なのに全然会わないのも、すごいよねぇ」


で、はいコレ。とバランさんが差し出してきたのは先ほどユリウスからもらった黒い布袋。大事なものじゃないの?と聞かれて、大事です。と答えると、落としたら駄目だよ、壊れ物みたいだし。と言ったバランさんに頭を下げて、受け取った。



「すみませんバランさん、ありがとうございました」
「…もしかして急いでる?」
「今日、駅に復帰の日なんです」
「!そっか、頑張って」


じゃあねー、と素敵スマイルで手を振られて5分程ロスしたことできっと遅刻だろうな…と半分諦めて、ルリはまた走り出した。






「ルドガーのご飯食べたかったなぁ…」


自分でも料理をしたりもするが、ルドガーのご飯の虜な私は、毎日楽しみにしているのだ。病院勤めのときはルドガーがお弁当作ってくれたし…今日ばかりはいつもより早く出勤しなければならなくてルドガーのご飯…っていうか朝ご飯を食べれなかった。

(車内でなんか食べよう…)

















「もう、どうしよう……」


ルドガーは、マンションから出てすぐの十字路で溜息をつく一人の少年を見る。


「教えてやろうか?俺も駅行くし」


電話を切られたらしい少年はどれが特別列車がわからないのに、肩を落とす。ルドガーは自身もトリグラフ駅に向かうため、それならば少年を案内しようと声をかけた。


「え、いいんですか?お願いします」


ルドガーの隣に並んだ少年は、友達にすっぽかされたんです。と苦笑しながら言う。そうなのか…とルドガーは頷きながら駅までの道を歩いた。














「…よし、頑張ろ」


仕事を確認し、セレモニー用の特別列車の車内点検が終わり、列車の外でルドガーが来ないか見てみる。すると、白髪に赤いコートを着た男性。クランスピア社の社長、ビズリー・カルシ・バクーが構内に入ってきた。

大きな人、なんか、厄介そうな人だ。そんな気がする。



「お待ちしておりました、ビズリー様。特別列車は定刻通り発車予定です。

…ルリくん!」

「あ、はい!」


呼ばれて近付くと、そこにはビズリー様、と呼ばれた兄、ユリウスの上司…というか会社の社長がいた。(私とルドガーを落とした会社の社長だ)


「彼女が、車内でビズリー様をお世話させていただくので何なりと」

「はじめまして、ビズリー様。ルリと申します。何なりとお申しつけ下さい」


頭を下げると、よろしく頼むよ。と声が聞こえて頭を上げた。ビズリーは列車に乗り込み、私はGHSと財布を更衣室に忘れたことを思い出し、取りに向かった。


10時まで、あと10分。



(04 必然エンカウント)


20121108
20121110/修正

ルドガーとジュードの出会いは偶然だけど必然だった、の意。←

あとバランと出会ったのも偶然だけど必然だった、の意。