あけましておめでとう!


パァン、とクラッカーの音が鳴り響いて一斉に笑い出す。新しい年の始まりは、社員みんなで迎えた。


「飲んでるか?リティル」
「っ、ユリウス室長!」


憧れのユリウス室長がグラスとビール瓶を持って私の背後に立っていた。
いつも通りの優しげな笑顔と、いつもより少しだけ赤い頬に、どくんどくんと私の心臓は速くなるばかりだ。


「ほら、グラス」
「へ、あ、ありがとうございます」


とくとく、と注がれたビールをぐいぐいと飲み干して笑ってみせる。大丈夫か?と苦笑したユリウス室長。


「私、お酒大好きなのでっ」
「はは、でも飲み過ぎるなよ?」
「はぁい、」


ユリウス室長は次の人のところまで歩いていきまたビールを次いでいた。そしてクランスピア社恒例の新年一発目、飲み比べ大会が幕を開け、秘書課代表としてリティルが出ることに。

周りは、酒好きで有名な社員ばかり。けれど優勝した部署には賞金と豪華景品があるらしく、これは負けてられない!と秘書課のメンバーに応援されて席に着いた。


「よーい、開始!」


始まりの笛が鳴って一斉に飲みはじめる各部署の人間達。ぐいぐいと喉を鳴らして美味しそうに飲み干すリティルに、周りの男性社員達は笑う。


「おいおい秘書課はこんなちっこい奴かよ?」
「飲めるのかぁ?」
「お子様はさっさと寝てろよ!」


ぎゃはは、と下品な笑いがその場を支配していたが、ダン、とジョッキを机に置いたリティルに、男達は固まった。


「すみません、おかわりください」


にっこりと笑って直ぐに運ばれてきたビールを景気よく飲み干す、それを繰り返すこと数十回。周りの男達はすでに夢の世界へ旅立っているものばかりで、残っていたのたリティルのいる秘書課と、リドウが参加している分史対策室である。


無表情のまま、余裕そうにビールを飲みつづけるリドウに、リティルは気が遠くなりそうだった。
いくら酒が好きであまり酔わないと言っても、もう相当な量を飲んだ。
すきっ腹に飲むと大変だから、と夜ご飯もそれなりに食べていたからか、そろそろ限界が近かった。


「君、なかなかすごいじゃないか」
「…それはどうも」

「でも、そろそろ限界だろ?倒れる前に…」
「…おかわり、ください」


コン、と机にグラスを置くリティルの目は既に虚ろだった。けれど勝たなければ、という思いから意地でも負けない、と笑った。秘書課の人間は皆、不安そうにリティルを見る。


「私、結構負けず嫌いなんです」


だから、とリドウに笑うと同時に、司会者があと1分!と叫ぶ。現在の量は、同じだ。


「絶対、負けたくないの」


ぐい、と飲み干して新たななグラスが置かれる。もう味なんてしない。舌が麻痺したリティルは、水を飲むかのようにゴクゴク、と喉を鳴らした。


「終了です!」


わぁ、と周りがざわついて、数えられた数は、1杯ではあるがリティルの勝利であった。秘書課の優勝は初めてらしく、皆嬉々とした表情を浮かべてリティルを抱きしめた。



「リティル!ありがとう、おめでとう!」
「すごいわっ」


はしゃぐ同僚や後輩、先輩にふにゃりと破顔させて、リティルはぱたりと机に俯せになりそのまま意識を飛ばした。






















「んっ…んん、」


目を開けると、そこはふかふかの広いベッドで、薄暗くて、水音が外の部屋から聞こえてきた。


「ここ…?」


ピンク、というかなんだか怪しげな販売機がある。けれどまだ酔いが冷めていないリティルは首を傾けてまた寝転がった。


「…あつ、い」


着ていたスーツのボタンを外して、ストッキングも脱ぐ。あぁ、なんか開放的だわ。

ぷち、ぷち、とシャツの前ボタンを外して目を閉じると、ガチャというドアの開く音。目を開ければ、そこには


「ユリウス、室長?」
「…目が覚めたか」

「えと、なんで…?」


白いバスローブに身を包んだユリウス室長に目をぱちくりさせていると、ユリウスはリティルの隣に腰掛けて頬を撫でる。眉間には、皺が寄っている。


「ユリウス室長?」
「無理するなと言ったのに」

「、ごめん、なさい」


謝ったリティルに、ユリウスは悲しげに笑って、そして口づけた。


「え、」
「ヒヤヒヤしたよ」
「あ、の…?」

「君が倒れたとき、気が気じゃなかった」


次の瞬間抱きしめられていて、リティルは困惑。いまの状況は?いまのキスの意味は?いまの言葉は?


「ユリウス室長、それ…私、期待しちゃいます」



微笑みの先



(期待していいんだよ)

(また笑った彼に、釘付け)



20120104

20120116公開
実はできていた作品。
熱のせいで更新できませんでした。