聞いた話、ジルはあまり本名を名乗らないらしい。親が云々って言ってたから、きっと辛いことなのだろう。
親を知らない私は、なんだか羨ましい気もするけれど。
ジルはなんと1歳年下らしい。大人っぽいから、上だと思ってた、うん。
この頃の私は、ルチアという偽名を使っていた。本名を出して仕事をしたくなかったからだ。
ジルとペアで任務のために潜入したり、魔物を討伐したり、研究施設に行ったり王の狩場に行ったり。とにかく毎日忙しく過ぎていた。
私が21歳になった、ある日のこと。
「あれ…?」
「…アミュレイン、どうした」
「や、あそこに」
リィン、ジルと一緒にと与えられた魔物討伐の任務が終わり、カン・バルクへの道を進んでいたときのこと。
見えたのは白銀。きらきらと光る綺麗な髪と、質の良さそうな服が、ボロボロになっている。
うずくまり、俯いている少女を見付け、私は近付いた。
「大丈夫?」
「!!!」
「怪我してる。此処は魔物もいるのに…危ないわよ」
話し掛けると、ビクリと肩が震えて、顔を上げた少女。そばかすが目立つ、けれど可愛らしい少女だった。
「何処から来たの、一人 ?」
「ラ・シュガルから…ひ、とり」
「…家族は?」
「いないわ」
リィンが早くしろと急かして五月蝿かったから、少女を保護してカン・バルクまでの道を進んだ。
ラ・シュガルからと答えた少女は一瞬だけ纏うオーラが変わった。
聞けば、ラ・シュガル六家、トラヴィス家の令嬢らしく、母親を亡くし家への憎悪から家を燃やして亡命してきたらしい。
まだ少女だというのに、どんな酷い仕打ちを受けたのか。私が、守ってあげなきゃと、思ったのだ。
陛下…ガイアスの前に連れていくと、リィンは殺せと言わんばかりにガイアスを見、ジルは興味なさそうに髪を弄り、オルテガは任務でいなくて。
少女は、謁見中に一度もガイアスから目を逸らさなかった。ガイアスはふ、と笑って少女を迎え入れたのだ。
リィンは納得いかない顔をしていたけれど、ガイアスが決めたことに何も言えなかった。
「トラヴィス家っていったら、ナディアちゃん、でいいのかな」
「なんで、知ってるの?」
「私、仕事でラ・シュガルにいたことあったから」
ナディア・L・トラヴィス。確かトラヴィス家は、選民意識が高い家柄だと聞いたことがある。彼女の姉は幼い頃に病で亡くなり、母親も亡くなったと風の噂で聞いたのだ。
「お姉さんのお名前、なんていうの?」
「私?私はアミュレイン」
「アミュレイン、お姉さん
……私、決めたわ」
「ナディア?」
「私、強くなる。お姉さんの隣に立てるくらい、強くなるわ」
決意の瞳、彼女の瞳は決して揺らがなかった。
これで、後の四象刃全員が揃ったのだ。
ナディアは、私、ジル、リィン、オルテガの猛特訓でみるみる強くなっていった。元々霊力野が発達していたからか、精霊術も難無く使いこなしている。
「姉ちゃん、勝負しようぜ!」
「うげ、面倒だから嫌よ」
「ちっ、使えねぇな」
「……昔は可愛かったのに」
今ではすっかり口の悪い少女になってしまったけれど、彼女なりに悩み、苦しんで、やっと今がある。一応、ガイアス以外に私には懐いてくれてるみたいだし。
「二人とも、陛下が呼んでるわよ」
「あ、ついに決定したんだ」
「…決定?」
「まぁ、行けばわかるわ」
ナディアが一人で魔物討伐に行けるようになった、保護してから数ヶ月後のこと。ガイアスに呼ばれて王の間へ行けばそこにはリィンとオルテガがいた。
「なんだよ陛下、話って」
「ナディア、口の聞き方には気をつけろ」
リィンが咎めると、ナディアふん、と鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「お前達を、ア・ジュール精鋭部隊"四象刃"に任ずる」
四象刃、誕生
20111208
うわあああ、やってしまいました。
更新の日がかなり開いてしまい申し訳ありませんでした。
今回で終わるって前回書いたんですけど、もうちょっと続きそうです。
お付き合いいただけると幸いです。
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