「冬島さん!当真どこ!!」

「うわ。びっくりした」


自分で言うのもアレだが、この部屋の主と化している俺が、偶然にも部屋を出ようと思って作戦室のドアを開けた瞬間に澪が飛び込んできた。まあ、さすがに若い子持ち前の反射神経と、俺の必死な回避でラッキースケベ展開は避けた。

いや、べつにJKとそんな展開が起こってもいいとは思ってるけど、澪は今この子が探している当真の彼女であるからダメであって。

いや、違うな。当真の彼女だったけど、先刻、当真本人が「ちょう怒らせたっぽい。もうオレだめかも、どうしたらいかな」って言ってたし別れたのかな。


ちょっと青春時代の経験が乏しい俺にはよくわからないわ。そう返した気がするけど澪がこの剣幕でくるってことは相当な修羅場なのかもしれない。


ちょっと励ますつもりでバナナでも買ってこようとか思ってたけどそういうのではだめそうだ。



「当真なら奥で落ち込んでるよ。用あんなら伝えるけど」

「いいです!直接話すんで!」


そういうと、勝手に作戦室に入っていく澪。うわ、はっきり断られておじさんちょっとショックかも。

あー、そっち片づけてないんだけどなあ。というか、なんで部屋の構造把握されてるんだよ、当真のやつ勝手につれこんだでしょ。


まあ、この場合はバナナ買いに行くよりも修羅場のぞくほうが優先だよね。


澪が突き進んでいく後をついていくと当真がソファで寝ていた。あいつ騒ぐだけ騒いで疲れて寝たのかよ。ガキか。

「当真!話があるの!!」って澪が思いっきり揺さぶることによって強制的に夢の世界から戻された当真は、なにがなんだかわからずにふぁっ!?とかアホみたいな声を出してソファから落ちた。
いつものようにアイマスクをしているが「澪か?」とちゃんと声でわかったようだ。


「当真、話があるの」

「は、え?おう?」


アイマスクをずらしてやっと視界の開けた当真はなんで、自分が床に落ちたまま澪に胸倉をつかまれているのかもわからずにキョロキョロとしている。

目で俺に訴えかけているのがわかるがごめんな、俺もお前がなんでそんな状況になってるのかわかんないわ。

とりあえず介入しないほうがいいということははっきりわかるので、そのまま近くの壁に寄りかかって眺めておくことにした。


「まずは、さっきはごめん。私の中で色々と整理がついてなかったのを当真に八つ当たりしちゃった」

「じゃあ俺が怒らせたわけでは」

「ない」


澪はまっすぐと当真の目を見据えて言い切った。

なんか見ている限りだと俺の思ってた展開とはちょっと違うかもしれない。まあ、隊長としては隊員が落ち込んだままになるよりはどういう形だろうとけじめがついて立ち直ってくれたほうがいいからね。そのまま続きを見る。


それからね、となにか決意をするように深呼吸する澪と何を言われるのかと身構える当真。


「私は、当真のことが好き。当真の彼女になりたいです」

「「は」」

「ちょっと待って、違う、変な言い方になった……」


いやいや、思わず俺まで声出ちゃったじゃん。澪ちゃん当真の胸倉掴んで告白っていきなりどうしたの。


言っておいて急に赤くなって胸倉を掴んでた手を放して顔を隠す澪と急な流れにまだきょとんとする当真と俺。


「なに言ってんだよ澪?」


やっと澪の言ったことが理解できた当真は呆れたようにそういいながら澪の頭に手を乗せると、髪をくしゃっと撫でながらいつもの笑みになって続けた。


「いつも言ってんだろ?お前は俺の澪だって」

「当真……」


えー、なになに。おじさんは何を見せつけられてんの。

そもそもこいつら付き合ってなかったのかよ、もうなんだかわかんないわ。


自分の隊の作戦室なのに居心地が悪いので出ていくことにした。

開発室にでも避難しておくか。



被害者 冬島(再び)

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「見えない臓器の名前は」
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