「あー!やっちゃった!」
誰もいない本部の廊下に声を響かせながら頭を抱えてしゃがみこんだ。
先ほどの当真とのやり取りを反芻しても思い出されるのは自分の身勝手な八つ当たり。
そんなつもりじゃなくって……ただ。
「こんなところで何してんの?」
「ひぃっ!?」
誰もいないはずの廊下で背後から声をかけられる。驚いて振り向くと見知った顔があった。
「……迅さん!いつからそこに?」
「今、来たとこだよ。そしたら澪ちゃんがしゃがみこんでるからどうしたのかなって」
「当真と」
「ケンカでもしたの?」
「違うんです……私が悪くって」
太刀川さんに図星を突かれて、それは今までずっと逃げてきた結論で。
「私いまの当真との距離が心地よくって、それが壊れるのが怖くってぇ……」
ここまで我慢していたものが堰を切って溢れてきた。
迅さんだって太刀川さんを同じで特に親しいわけでもないのに、そんな人の前で急に泣くなんて失礼にも程があるのはわかる。
でも、気持ちが止まらなくって泣き止まない私に少し驚いたようだが無言で頭をポンポンとしてくれる迅さん。その優しさに尚更、涙が出る。
「ずびませ……」
「いいよ。ほんとはこの役目はおれじゃないほうがいいんだけどね」
「……まあ、でももう大丈夫か」
迅さんが付け足すように呟いた言葉に、やっと涙が止まってきた私が首を傾げたタイミングで間延びした聞き覚えのある声がした。
「おやおや〜迅さんと澪ではないかって、え、どうしたの?泣かされたの?」
「柚宇ちゃん……」
「ちょうどいいところに来たな国近、後は頼んだ。」
「なになに〜?どういう状況なの〜」
「そうそう、澪が泣いたのはそっちの隊長のせいだから」
全然、状況がわからないといった様子の国近だが、話の流れに合わせてくれる。
「え?太刀川さんがなんかしたの?今すぐレポート破いて謝罪させようか?」
「ううん、違うの大丈夫。……ただ時間あったら相談のってくれる?」
「うん!いいよいいよ〜。うちの作戦室くるかい?」
うちの澪がお世話になりました。さよなら〜。と言う国近と感謝と謝罪の意を込めてお辞儀をする私に手を振る迅さん。
二人が少し離れたのを確認して独り言のようにつぶやく迅。
「大丈夫」
「二人は付き合うっておれのサイドエフェクトがそう言っているから」
予言者 迅