軽蔑なる噂


執事に案内されてお屋敷の中へと入ると、外装とは打って変わって内装はものすごく煌びやかだった。
エントランスは吹き抜けとなっており、天井は高く、そこに吊るされているシャンデリアは光に反射してキラキラと輝いている。

「うひょー」

「……ラビ、その反応はちょっと田舎臭いよ」

キョロキョロと辺りを見回すラビに私は肘打ちをすると、奥からさっき案内してくれた執事とは違う別の執事が私たちを出迎えた。

「失礼ながら、そちらは仮装ではございませんね?」

「え? あー、いえ、私たちはこれが仮装で……」

列車内で仮想をどうするか話した時、「既に俺らは仮装みたいなものさ」「たしかにー!」と盛り上がった私たちは、結局仮装せずここに来てしまった。
それに仮面も会場で貸してくれるだろうと思い、顔には何もつけていない。
やっぱりドレスぐらいは着ておくべきだったかな。

「ごめんなさい、私たち着替えは持ってなくて」

「いいえ、エクソシスト様」

「「っ!」」

さっきまで和やかだった空気が一変し、ピリついた空気が全身にまとわりつく。私とラビはいざと言う時のため、イノセントを直ぐに取り出せるよう戦闘態勢をとった。
何故、私たちが黒の教団だとバレた?
私もラビも団服に描かれている胸のローズクロスは隠している。
もしかしてここに伯爵が――。

「旦那様は何でも知っておられます」

「こりゃ、早速かな」

ラビはイノセンスを発動させようと槌を取り出すが、執事は「コホン」と咳払いをした。

「今宵は年に一度の仮装舞踏会。そのようなモノは必要はございません。……しかしながらそちらのお召し物は着替えていただきます」

執事は頭を下げると執事は私たちに背を向ける。
こちらへの戦意はないということか?
それにあの言い方。まさかとは思うが、今日は失踪者が出ないということ?

「やだ、何あれ」

「あの方々、仮面を付けてませんわ」

「?」

エントランスを見渡すと、大広間から騒ぎを見たさに貴族が何人かこちらを見ている。
貴族はコソコソと何かを話しており、その視線が鬱陶しい

「ラビ、槌しまって。貴族がこっちを見てる。色々と調べたいし、これ以上は目立ちたくない」

「それもそうだな」

ラビは槌をしまうとエントランス付近にいる女性に対し「なんでもないさ」と目をハートにして手を振り出した。
私はラビの頭にゲンコツをひとつ落とし、そのまま首根っこを引っ張り執事の後を追った。
正直、執事に対して怪しさを隠せないでいるが、ここに居ても目立ってしまう。それにエントランスにいる貴族を見ると、みんな仮装というよりただ綺麗に着飾っているだけ。

「仮装って、結局その顔につけてる仮面だけじゃん」

貴族たちを睨みつけて吐き捨てるように呟く。貴族たちは「まぁなんで目つき……」と更にコソコソと話し始めた。
私たちだけこんな服装で、浮かれて、バカみたいじゃない。
私は噂話に花を咲かせている貴族から早く離れたくて、早足で階段を登った。
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