内緒話(2)


(小娘…僕も抱っこ…)
「あ、これ新しいお菓子だ。私も買ってみようと思ってたの。良かったね、武市さん」

二本足で立ち、彼女のスカートに手を掛けるも、その気持ちが小娘に伝わることはなかった。以蔵を下ろし、菓子の箱を手に持った小娘は「ちょっと待っててね」とキッチンに消えて行く。

(以蔵、一体お前は何をしに来たんだ)
(は?ですから、武市先生と遊びに…)
(それなら小娘に馴れ馴れしく触るんじゃない。全く図々しいにもほどがある!)
(いえ、あの触られたのは俺のほう…)
「お待たせ、ちょうど三時のおやつだね」

奥から現れた小娘が以蔵の反論を遮る。両手に持った皿を僕らの前に置いた小娘は、菓子を見て感心したように頷いた。

「最近のお菓子って本当によく出来てるね。置いてあったら間違えて食べちゃ……」

言い終わる前に、突然テーブルに置いてあった携帯電話が震え始める。それを見た小娘は、一瞬驚いたように目を見開いた。

(……?小娘、誰から…?)
「はいもしもし……はい、大丈夫です…はい……私は変わりないです…半平太さんはお元気ですか?」

その名前にぴくっと耳が反応し、僕は小娘を見上げた。視線が定まらないその顔は、薄すらと赤い。

(“はんぺいた”…!?なんであいつが…!)
(“はんぺいた”って小娘の恋人ですか?)

僕はその問いかけには答えずに、小娘の声だけに耳を傾けていた。けれど小娘はソファには座らずに、そのまま自分の寝室へと行ってしまった。

(先生、この菓子なかなかイケますね)
(………)
(どうしたんですか?先生)

すっかり菓子を平らげた以蔵は、僕の顔を下から覗き込む。

(もしかして“はんぺいた”のことが気になるんですか?)
(………)
(ま、小娘だって年頃なんですから、恋人の一人くらいいますよ)
(そんなことは分かっている!だが…だが、“はんぺいた”は小娘の恋人なんかじゃない!)
(お気持ちは分かりますが…。でもあいつの顔なんだか嬉しそうでしたし、やっぱりそうとしか…)
(うるさい!僕はそんなこと信じない!“はんぺいた”は悪いやつなんだ!)
(わっ!ちょっせんせっ…!)
「お待たせ…って武市さん!?何してるの!?」

以蔵に覆い被さる僕を持ち上げ、小娘は「駄目じゃない」と声を尖らせる。抱き上げられた以蔵は、小娘の腕の中で呆気に取られている。

「ごめんね、大丈夫?武市さん、いつもはこんなことしないのに…」
(いや、俺はその…別に……)
(おい、以蔵!さっさと下りろ!そこは僕の場所だぞ!)
(す、すみません先生…。しかし俺の力ではどうしようもないと言いますか…)
(お前、何顔を赤くしてる!さては小娘のむ、む…)
(いえ、俺は断じてそのっ!そそそんなことは考えておりません!)
「もう、ケンカは止めて。以蔵くん、怪我がないか確認しなきゃ」

以蔵を抱いたまま、小娘はソファに身体を沈める。その間も、以蔵の顔は真っ赤に染まったままだ。

(小娘、違うんだよ。だって以蔵が……)
「武市さん、罰として明日のおやつは抜きよ」
「にゃっ!?」

驚く僕を見下ろしながら、以蔵は恐る恐る口を開く。

(先生……)
(………)
(先生、あの……)
(以蔵、お前はもう破門だ)
「にゃっ!?」
「ほら、動いちゃ駄目よ」

慌てる以蔵から目を逸らし、僕は小娘の足許で体を丸めた。

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