桜結び(2)
「武市さん…?」
聞きたいことが山ほどあった。
どこに行くの?
あの女性は誰なの?
彼女と何を話していたの?
半平太さんはどうして、彼女に笑顔を見せていたの―?
口を吐きそうになるのは、そんな醜い嫉妬ばかり。
「おいで。見せたいものがある」
私の顔も見ずに、半平太さんは人気のない道へと進んでいく。
手を繋いだまま、黙ってその後を付いていくと、やがてぼんやりと薄明かりが見え始めた。
「わぁ……!」
月明かりに照らされた一本の大樹。
満開に咲き誇った桜が風に揺れて、足許へと花びらが舞い落ちる。
「こんな場所があったなんて知りませんでした。武市さん、いつ見つけたんですか?」
思わず樹に駆け寄り、私は桜を見上げる。すると、また花びらがふわふわと顔に降ってきた。
「小娘」
「はい?」
「こっちを向いてごらん」
言われるまま樹を背に振り向くと、そっと彼の指が唇に触れる。その指先には、小さな花びらが付いていた。
「あ…ありがとうございま…」
春の夜気に、桜がざわめく。
その音を頭の片隅に聞きながら、冷えた唇が熱を帯びていく。
「んっ!………」
奥へ奥へと侵入を続ける舌に頭の中まで蕩けて。
力の抜けた身体を支えてくれるこの腕に安心して。
誰かに見られたらどうしようと思っているのに、私は彼を拒めない。
「はっ…ぁ…半平太さ…」
二人を繋ぐ糸が途切れ、ふわりと身体が浮かんで。
膝に乗せられた手がスカートの中を伝っていく。
「やっ…だ、め……!こんな、ところで…」
「どうして?…高杉さんには触らせてたじゃないか」
「…!」
見られてたなんて―。
付け根に達した指がストッキングの中に差し込まれ、ゆっくりと肌を撫でる。
「僕が知らないと思った?だから君は、いつだって隙だらけなんだ」
「ふ……。半平太さんだっ…て…」
「ん?」
「半平太さんだって、あの女の人とずっと話してたじゃない…」
ふっと手が止まり、半平太さんの瞼が上下する。
我が儘だって分かってる。
だけど、他の女の人と話す半平太さんなんて見たくない。
その笑顔も声も、私だけのものであって欲しい―。
「うん、そうだね」
「な、何を話していたんですか…?」
薄く口許に笑みを浮かべ、半平太さんが私を抱き締める。そして耳に唇を寄せると、楽しそうな声色で囁いた。
「知りたいのなら、続きは僕の部屋で、ね」
「え?」
「今夜」
「ゆっくり教えてあげるから―」
甘美な誘惑に、心が打ち震えて。
夜気に揺れる彼の髪を撫でながら、私は小さく頷いた。