黒の誘惑(1)


「えっと…あの角を右に曲がって…」

私は今、女将さんからお茶菓子を買ってくるように頼まれて、地図を頼りにお店に向かっている。やっと京都の地理にも少し慣れて来たけれど、今日行くお店は初めてだから、迷子にならないように、歩きながら何度も地図を確認する。

そして角を曲がろうとしたその時、勢い好く出てきた人とぶつかってしまった。

「きゃっ」

前を全然見ていなかった私は、転んでしまう。

「ああ、すまない。大丈夫かい?」
「はい…。ごめんなさ…」

私が顔を上げると、意外な人と視線が合う。

「い、乾さん?」
「おや。君は武市のところにいるお嬢さん。今日はひとりかい?」
「は、はい」

乾さんが手を差し出してくれる。私は戸惑いながらその手を取った。
だけど、私が立ってからも乾さんは手を離してくれない。

「あ…の…?」
「大変だ。擦りむいている」

よく見ると、私の手には小さな擦り傷ができていた。

「これくらい大丈夫です」
「何を言っているんだい?その美しい肌に痕でも残ってしまったら大変だ。藩邸で手当てをしよう」
「で、でも私、お買い物の途中ですし…」
「そうなのかい?では後で寺田屋に届けさせよう」

結局、私は乾さんに言い包められて、土佐藩邸に来てしまった。


どうしよう…。
今までは武市さんや龍馬さんが一緒だったから良かったけど、乾さんと二人きりって何だか怖い…。悪い人じゃなさそうだけど、なんかぞっとする。

私がそんなことを考えながら廊下を歩いていると、女中さんが声を掛けてきた。

「あら、乾様。その娘さんは誰なが」
「俺の知り合いだ。手に怪我をしてしまってな」
「ほりゃあおおごとだわ。手当てしましょうか」
「いや、いい。俺がするから、しばらく部屋に誰も来ないように言っておいてくれ」

そう言うと、乾さんは私を一室に招きいれた。


「…それにしても、なんて滑らかな肌なんだ。ずっと触れていたくなる」

乾さんは、薬を塗り終わった後、ずっと私の手を撫で回してくる。
やっと離れたかと思うと、今度は私の首筋や髪を触ってくる。

「あっ…や、やめてください…」
「照れているのかい?初々しいね」

本当ははっきり言いたいけど…。
でも、武市さんがいつも我慢してでも乾さんに会ってるのって、大切な人だからだよね…?
ここで私が変なことしたら、武市さんのお仕事の邪魔をしちゃうかも…。

私がずっと黙っていると、乾さんの手が胸元に移ってくる。

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