私の居場所(1)
障子から射し込む陽の光が眩しい。
…ここは、どこなんだろう。
障子を引いて、外に目を向ける。
きれいに舗装されたコンクリートの道路。
そして、その上を洋服を着て歩く人々の姿が目に入り、ここは紛れもなく元の世界なんだと思い知らされる。
この世界に還ってきた時、カナちゃんは着物姿で泣きじゃくる私を見て、何も聞かずにいてくれた。
監督も、何か事件に巻き込まれたんじゃないかって心配してくれたけど、私は話を出来る状態じゃなかった。
だから、一足先に旅館で休んでいるように言われて、私は部屋で着物姿のまま項垂れている。
大好きなあの人との突然の別れ。頬はずっと濡れたままだった。
最後、微かに聞こえた彼の言葉が耳に蘇る。
「小娘。幸せに」
半平太さんは、私のためを思って、元の世界に還してくれた。
だから私も、この世界で幸せを見つけようと思った。
でも…そんなこと出来そうにない。
この世界に戻ってきて、考えるのはあなたのことばかり。
私はあなたが傍にいてくれなきゃ、幸せにはなれない…。
だから…。
私はすっくと立ち上がる。そのまま、早足で玄関から出ようとした時、見慣れた人影と出会った。
「カナちゃん…」
「小娘ちゃん!もう大丈夫なの?」
「どうして…?」
「やっぱり小娘ちゃんが心配でさ。仮病使って抜けて来ちゃった!…どこか出掛けるの?」
大好きなカナちゃん…。
私がこれからすることは、彼女を悲しませることになるんだ…。
でも…
「あのね…カナちゃん…」
「ん?何?」
「私、カナちゃんのことが大好きだよ」
「突然どうしたの?そんなこと、わかってるって!」
「だけどね、」
私は涙声になりながらぽつぽつと話す。
「私…どうしても会いたい人がいるの…。その人の傍にいたいの…。だから…」
こんなこと、急に言われたって訳わかんないよね…。
私はカナちゃんの顔を見ることが出来なくなって、俯いてしまう。
だけど、次の瞬間、頭に温かいものを感じた。
見ると、カナちゃんの手が私の頭を撫でていた。
「…どんな人なの?」
「…え?」
「会いたい人」
私は半平太さんの姿を思い浮かべる。
「…すごく、優しい人。叱られることもあるけれど、それも私のことを思ってくれてのことで…」
私は半平太さんと過ごした時間を思い出していた。
迷子になった時、必死に私を探し出してくれた。
浪人に絡まれた時、助けてくれたこともあった…。
いつも…私を守ってくれた。
「その人のこと、好きなんだね」
「…うん」
私は半平太さんのことが好き。
たとえ、二度とこの世界に還って来られなくても…傍にいたい。
カナちゃんは、私の頭からそっと手を下ろした。
「…絶対、幸せになってよね」
「え?」
思いがけないカナちゃんの言葉に、私は顔を上げた。
「はぁ…。いつかこんな日が来るんじゃないかって思ってたけど、あまりに突然でびっくりしちゃった!小娘ちゃん、いつの間にそんな人出来たの!」
私はその質問には答えられず、愛想笑いで返すしかなかった。
「早く行かなきゃ!」
カナちゃんはぐいぐいと私の背中を押す。
「そんな素敵な人、さっさと行かなきゃ誰かに取られちゃうよ!」
「…カナちゃん…」
本当は、聞きたいことがたくさんあるはずなのに…。
私は涙が込み上げてきた。